「ルー、どうした?」
冷静に問いかけたつもりだったが、震える声が明確に非難を伝えてしまっている。
楽屋のパイプ椅子に足を投げ出して座り、俯いて、髪で表情を隠したルーは返事をしない。
「コンサートだぞ。
小さな会場だし、何万人集めたわけじゃない。
でも、お前の歌を聞きたくてわざわざ金払って遠くから来てくれたお客様もいること、分かってるだろう。」
小さな会場だし、何万人集めたわけじゃない。
でも、お前の歌を聞きたくてわざわざ金払って遠くから来てくれたお客様もいること、分かってるだろう。」
責めてはならないのだ。
話し合いをしようとしている時に、責めてはいけない。
本番に遅れたわけではないんだ。まだ間に合う。
話し合いをしようとしている時に、責めてはいけない。
本番に遅れたわけではないんだ。まだ間に合う。
頭ではわかっていても、どうしようもなかった。
あと10分ほどで、コンサートが始まる。
大幅に遅刻してきたルーのせいで、リハーサルは最小限のおざなりなものになった。
私には、それがどうしても許せない。
どんなに小さなコンサートでも、多くのスタッフがいる。共演者がいる。何より、お客様がいる。
だから、時間を守り、全神経を集中しろと口を酸っぱくして言ってきた。
長い年月をかけて私がルーに伝えたことは山のようにあったけれど、唯一これだけというものを選べと言われたら、この一点になるのだ。
なのに、ルーは遅れてきた。
理由も言わず、誠意をこめて謝るでもない。
ミスを取り戻すような覇気を見せるわけでもなかった。
ミスを取り戻すような覇気を見せるわけでもなかった。
「黙っていてはわからないだろう。どうしてこんなことをするんだ。」
冷静さを装った分余計に、私は爆発寸前になった。
ルーをこの世界の住人にしたのは、この私だ。
もちろん、すべては彼女の実力と才能、努力と運があったからだ。
それでも、彼女一人でここまできたわけではない。
なのに!
「あたし、もう歌いたくない。」
ぼそりと言う声を聞いて、何か言えと言ったのは自分なのに怒りが煮えたぎった。
「歌いたくない?何を言っているんだ。そんなの、今言うことか?」
「歌うのは私よ。私の気持ちが最優先でしょう?三木さん、お客様に言ってきてよ。私、今日は無理。」
その言い草に、私は怒りを通り越して呆れかえった。
「なぜ私がお客様に言うんだ?そんなことは自分で言え!」
「だって、三木さん、私のマネージャーでしょ?」
そういいながら、ルーは顔をあげた。
予想外に強い視線に私が言い返す言葉を一瞬ためらうと、ルーが先に言った。
「私、大切な人ができたの。今度ちゃんと三木さんにも紹介するわね。今は歌より彼との時間が大事なの。」
「ふざけるな!」
叫ぶ前に声を失ったのは、ルーが髪をかきあげた首筋に、赤紫色の斑…それが真新しいキスマークであることくらい、誰が見たってわかるだろう…が見えたからだ。
私は震えだした手で、自分のバッグをつかみ上げた。
「好きにしろ。」
彼女の後ろでおろおろと様子を見守っていたメイクの女の子やスタッフをおいて、私は部屋を出た。
そのまま通りに出て、コンサート会場を後にした。
今回のお話はかなり長いので、続きは「続きを読む」リンクを押してお読みください。
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