「新興宗教って、なんですかそれ!?ひどすぎます!」
バイトスタッフは頬をふくらませた。
「そうよね。でも、新吉さんが言う通り、私もあれは私たちのミスだと思うわ。
地域に根差して活動していくことを考えていながら、地域の方に分かりやすく説明し、理解を得ておこうという努力をしていなかったわ。
こんなにステキなことをするのだから、理解されて当然と思う気持ちが、どこかにあった。
それって、とても押しつけがましいことよね。
誤解されて当然だったと思うの。」

「ですけど、そのときの教訓をもとに、新たな『おらほ』を作るときには、まず地域の皆様に趣旨を説明して、賛成していただけること、ご協力を取り付けておくことが第一という基本姿勢ができあがったのですもの。
貴重な経験でした。」
そういうのは、2号店を任されている施設長だ。

「私たちはもう、会長も見えないことだし、4月3日のオープニングイベントはとりやめて、内輪でささやかに門出を祝うだけにしようと言っていたの。
でも、笹山さんたちは、 会長が来ると聞きつけていたらしくて、ここにお仲間と乗りこんでこられた。
大きな声で出ていけ、出て行けと叫ばれて。
驚くし、怖いし、正直言って辛かったわ。」 
今日子が本音をこぼした。

「殴り書きの立て看板なんかも持っていたな。
最初は門の外で騒いでいたんだが、そのうちエスカレートして、敷地の中に入ってきたんだ。
それで、ほら、門の脇の花壇を踏み散らして、大騒ぎして…。」
隆三が、言いにくそうにする先を、今日子が継いだ。

「トコちゃんのことは、話したわね?」
「はい。おらほの家のマークになっているこの花の由来を教えていただいた時に!」
「4月3日はね、トコちゃんの命日なの。
その大切な日に、私たちはこの家のスタートを切ることにしたのよ。
それで、真理さんがね、雪が多い安曇野では無理と知りつつ、門の脇にたくさんの花が咲くようにと、チューリップの球根を秋から植えていたのよ。
それが、ほんの少し、芽を出していたの。あの花壇で。」

「できれば、開所に間にあって咲いてほしくて、早くから雪寄せして、土にお日さまを当てて。
寒い日もあったけれど、私の気持ちが通じたように、芽を出してくれたの。
分厚い葉の先が見えた時には、トコちゃんが応援してくれているような気がして、嬉しくて。
なのに…。」
真理がこの話をするのは、今日子たちも聞いたことがなかった。

「真理さんは、思わず飛び出して、笹山さんたちを止めに行った。
私たちは笹山さんたちを刺激しないように、見守るしかないと思っていたのだが、トコちゃんの花を踏みにじられるのが、真理さんには耐えられなかったんだろう、ね?」
「そうなんです。本当に、見ていられなくて。」
答える真理の肩に、優が黙ってそっと手を置いた。
真理の膝では、譲が大人しく抱かれて、安心した顔をしている。

「真理さんはね、なんと花壇でドタバタしていた笹山さんたちを突き飛ばしてね。
花壇の外で尻もちをついた男たちを放っておいて、花壇に膝をついて球根を確かめ始めたんだ。
でも、どの芽も無残に折れてしまって、中には掘り出されて踏みつぶされた球根もあってね。
ひどい有様だった。
真理さんは、思わず声をあげて泣き出してしまったんだ。」






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