待ち合わせた店は、平日の昼間だが、案外混んでいた。
それでも、先に着いていたミドリが席を確保していたので、優はすぐに座って、水を運んできた店員に焼き魚定食を注文した。
「で、相談って何?」

挨拶もそこそこに尋ねる優を、ミドリは笑い飛ばした。
「何それ?元気だった?とか聞かないの?」
「だって先週元気だったんだし、病気だったらこんなとこ来るはずないし。」
尋ねる意味がないということらしかった。

「色気がないなぁ。」
ミドリはまた笑った。
「ないよ、色気なんて。で、何?」
優は真顔で問い返してきた。 
「もう!ま、いいや。あのね、私、運転免許を取りたいの。だから、教習所に行きたいと思って。」
「行けば?」
来店する前から焼き上げてあったのではないかという勢いで、焼き魚定食が届いた。
ミドリの前に何も置いてないことに気づくふうもなく、優は焼き魚にかぶりついた。
よほど空腹だったのだろうと思ったミドリは、優がバクバクと魚を食べていくのを黙って見ていた。

「行けば?って、簡単に言うけど…。」
「簡単だろ?通える場所にある自動車学校探して、申し込めばいいだけだよ。何を相談する必要がある?金か?それなら相談する相手を間違えてる。」
「スグルったら、ほんと、真剣になってくれないよね〜。」
ミドリは呆れ顔でそういった。

「ミドリがいちいち真剣になりすぎるんだよ。やりたいことがあったらやる。それだけだよ。相談もなにもないだろ。」
「あのさぁ、私、薬飲んでいるんだよね。そういう人って、免許取れるのかなぁと思ってさ。スグル、そういうこと詳しいかと思って。」
「知らねぇよ、そんなもん。自動車学校か警察に直接聞けよ。俺に聞くだけ時間の無駄だ。」
呼び捨てにされても平気な顔の優の声には押し殺した苛立ちが紛れていたが、ミドリには感じ取れず、ただ、気の置けない関係だから軽くあしらわれているのだろうとしか考えていなかった。 

ミドリの前に、ようやくエビドリアが届いた。
小さな丸いグラタン皿の中で、ホワイトソースとチーズがグツグツと泡を立てている。
一緒に置かれたアイスティーは、ドリアが熱すぎた時の対策だ。
「あれ?お前、まだ食ってなかったの?」
「まだよ。自分だけさっさと食べちゃって。」
「あー、悪い悪い。気がつかなかった。」 






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