優は疲れが、真理は酔いが手伝って、食事を終えて部屋に戻ると、歯磨きをしただけですぐに寝てしまった。優は朝湯に賭けるんだとまた強がって、真理より先に睡魔に襲われていた。

真理は、何かに引っ張られている気がして目が覚めた。
いくらも眠った気がしなかったが、寝ぼけた目で腕時計を見ると、もう8時間も眠っていた。
「真理さん、真理さん、起きて。朝日を見に行こうよ。」
「ああ、ご来光ね。うん、わかった。着替えるから、待ってて。」
ご来光を見に行くというのは、真理が言い出した、もとからの計画だった。
それをあれほど「二人はまずい」と言っていた自分が、下に優がいるにもかかわらず、起こされるまで起きないほど安心して熟睡していたことに小さく呆れていた。

着替え終わって優を見ると、随分気軽な格好をしている。
「朝は寒いのよ。もっと着て。低体温になったら大変。」
まだ眠っている隣人を起こさないようにささやくと、優は抵抗せず、すぐに上着を着込んだ。

雷鳥荘を出て、しばらく斜面を登った。
先程までいた雷鳥荘が、下の方に小さく見えるところまで行くと、優はあたりを見回して、椅子になりそうな岩を探して腰掛けた。
「ホントだ。寒っ。」
そのままもうしばらく待っていると、空が少しずつ色づき始めた。
日が出る直前が一番寒い。

「さ、寒いっすね。ヤバイ、もっと着て来りゃよかった!」
優はそう言うと、真理に擦り寄ってきた。
「なによ、だから言ったでしょ?」
いつの間にか丁寧語がなくなっていることに、ふたりとも気づいていない。
寒い、痛い、辛いと言われると助けずにはいられないのが、ケアの世界に生きる人間の性なのだろう。
真理は他の場面なら突き飛ばすところを、黙ってくっつかせておいた。

しばらく無言で、少しずつ広がる光を眺めていたが、不意に優が尋ねた。
「真理さんはどうして独身なの?」
「どうしてって…以前は独身じゃなかったこともあるし、母親だったこともあるわよ。」
「そうなんだ。だよね。いくらなんでも、真理さんがほっとかれるはずないもんな。」
「何持ち上げてんの?ゴマすったって、帰りの荷物持ってあげたりしないわよ。」
「そうじゃないよ。けどさ、もったいないよ。」
「そう?それはありがとう。あなた、眼科行ったほうがいいよ。」 






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