その日は扇沢からトロリーバスやロープウエイを乗り継いで、立山黒部アルペンルートをたどることにしていた。
これならば歩く距離を減らして、一気に高い山の雰囲気を味わうことができる。
終点の立山駅から雄山頂上へ登ってもよいし、みくりが池の周りなどを歩いても良い。
こちらは今日子のたっての願いで、雷鳥荘に1泊することになっていた。
こんな高山の山小屋に、温泉があるのだから魅力は尽きない。

立山駅に着くと、優はすぐに歩き始めた。
雄山に登るのだという。
雄山は、立山の頂上だ。
一番上に神社があり、神主もいて、お祓いを受けることもできる。

石畳の登山道を歩くのは楽しかったが、トイレを済ませ、いざ頂上へと登り始めたとたん、これは大変だと真理は思った。
とにかく勾配がきつい。風も強く、吹き飛ばされそうになる。
石が浮いていて、足を乗せるとそのままズルリと滑り落ちそうになった。

優はと見ると、いつの間にか真理の後ろにいて、フーフー言っている。
背が高いから風を受ける面積が広いんだろうね、大変だねと心の中でつぶやいて、笑いをエネルギーに変えてみようとしたが、足はなかなか進まなかった。

真理も、雄山は初めてだったのだ。
ザラザラの斜面には、真理が見たい花は咲かない。雷鳥もここに登らなくとも見られるのだ。
下から見たときにはそれほど遠くないと思った。
実際、登るのは300メートルほどのはずだ。
それがなかなかたどりつけない。

何度目かの強風にあおられて帽子を押さえたとき、真理さん頑張ろう、と声をかけられた。
優だった。
頑張って、じゃなくて、頑張ろう、か。
真理はなんだか機嫌がよくなる自分に気がついた。
「うん。頑張ろう。てっぺん着いたらお茶しようね!」
「お、おうっ!」

ギャーギャー言いながら、ようやく山頂にたどり着く頃には、ターミナルに降りてから2時間以上が過ぎていた。
それでも、コースタイム通りだ。
山頂にある小さな祠に手を合わせ、少し下にある神社の脇で昼食にしようということになった。

優のリュックから、菓子パンがコロコロと出てくる。
「これでお昼なの?」
真理は思わず尋ねた。
「はい。ゴミが小さくなって持ち帰りやすいし、糖分も炭水化物もすぐにエネルギーになりそうだし。」
優なりに考えた結果らしい。

「じゃ、半分こしようか。」
真理は年の離れた弟に言うように、自分のお弁当箱を差し出しながら言った。
蓋を開けると、優は歓声を上げた。
「うっわー!うまそーっ!それにこんなにある〜!」
「だって今日子さんと3人と思ったから。」
「うぉー!いっただきま〜す!」
早起きして作った唐揚げや卵焼きが気持ち良いほどスッキリと青年の胃に収まっていく。
うまいうまいを連発されて、真理は悪い気持ちがしなかった。 






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