メグちゃんが学園を出て、柳沢夫妻の家で暮らし始めたのは、その2学期が終わった、12月末のことだった。
新年を新しい家族で迎えたいと言う夫妻の申し出を、学園はありがたく受け入れた。
真理もそれほど悲しまなかったのは、夫妻の家が学園から近く、その気になれば歩いて行くこともできる点が大きかった。
転校する必要もないので、3学期が始まればまた会える。
学園に残った3人娘は、メグちゃんが学園を出ると決まっても、それほど動揺することもなかった。

真理はそのことよりも、両親の元に帰る話が出ているトコちゃんの方がずっと心配だった。
トコちゃんのお母さんは知的障害がある。お父さんはそんな妻子を捨てて女と逃げたいい加減な男だ。
本当に改心したのだろうか?
そんな不安な場所に帰るというトコちゃんを思うと、胸が焦げるような痛みを感じる。

それにくらべて、メグちゃんは恵まれている。
両親を一気に亡くしたとはいえ、その瞬間まで、彼女は本当に愛のある温かな家庭で育った。
今もまた、しっかりとした考えの、思いやり深い夫婦に引き取られた。
この子たちの運・不運はいったい何で決まるのだろう。
そう思うと、高熱が下がらない時のようにやるせなく、落ち着かなくなるのだ。

正月があけて3学期が始まり、スミレたちはメグちゃんと再会した。
わずか2週間離れただけなのに、4人は同窓会で久しぶりに出会ったかのように懐かしがった。
メグちゃんの着ている服が、とても高級なものになっていることに他の3人はすぐに気付いた。
メグちゃんはズボンが好きで、いつも膝に泥をつけて遊んでいた。
でも、始業式だからだろうか、この日はチェックのプリーツスカートと、黒いタイツをはいていた。
学園のものとはちがう、甘く大人びた香りが、メグちゃんの髪から漂ってくる。
きれいに櫛目がとおた髪の耳元には、かわいらしいピンクのリボンがついたピンがとめてあった。
2週間前まで、とかすのを嫌がって、ブラシをもって追いかける真理さんから逃げ回っていたボサボサ頭のメグちゃんはもうどこにもいない。

「違い」を発見するたびに、「同じ」でなくなった仲間が遠ざかっていく。
今ここで、手を取り合って、その温度まで感じることができるのに、手の届かないところへ行ってしまったような寂しさを、他の3人がそれぞれに味わっていた。

もしもこの4人が中学生だったら、そこに嫉妬とか羨望とかいう感情が強烈に生まれたのかもしれない。
しかし、そんなものに心を焦がすにはまだ、この子たちは幼すぎた。







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