トコちゃんが去ったと同時に、学校は春休みに入った。
一日中子どもたちがいる学園はお祭り騒ぎで、今日子も真理も、トコちゃんのことを気にかけつつも、落ち込んでいる間がなかった。
それでも、真理は、トコちゃんの別れ際の声を思い出しては、不意に涙をこぼしている。
そんな真理をスミレや同室の女の子たちは、どうしたらいいのか分からずにいた。

トコちゃんがいなくなって5日目のことだった。
学園に入った一本の電話をとった今日子は、そのまま凍りついて動けなくなった。
受話器を握った形のままの手から、ボトリと受話器が落ちた。
その場にいた職員が、禍々しい予感と共に今日子の周りに集まった。
「施設長!どうかしたんですか?」
「トコちゃんが…。」

今日子は事務室を飛び出した。
真理の姿を探す。
いた。
プレイルームで子どもたちに絵本を読み聞かせてやっているところだった。

「真理さん!」
さすがに、子どもたちの前では言えず、今日子は口ごもった。
普段から冷静沈着な施設長の取り乱した姿を見て、真理はただ事ではないと思った。
子どもたちに、続きは後でね、と声をかけ、施設長の元へ歩み寄った。
今日子の白目が血走っている。
震える唇からどのような言葉が転がり出ても、それはろくでもない知らせに違いない。
真理は体中が緊張するのをどうしようもなかった。

「トコちゃんが、息を引き取ったって…今、電話が…」
「うそ…」
真理はその場にガクンと膝をつき、それでも姿勢が保てずに、両手を床についた。
最悪の話が出てきても驚かないつもりだったが、最悪を飛び越えて、思いもよらない凶報が信じられない。
「どうして?何があったんです??」
「わからないわ。児相からの連絡で、ただ、今朝がた息を引き取ったとだけ…。」

床についた両腕をわなわなと震わせてはいるが、真理は息が止まってしまったかのように見えた。
「行きましょう、真理さん。トコちゃんのところへ!」
今日子が真理の肩を思い切り揺すった。
のろのろと頭をあげた真理は、雷に打たれたように大きく身体を震わすと、真っ直ぐに今日子を見上げた。
「はい!」

トコちゃんの家に着くと、先に児相のワーカーや民生委員が来ていた。
乱れた部屋の中に敷かれた小さな布団の中に、白い布をかけられた小さな姿が横たわっている。
真理は、つんのめるように駆けよると、その布をさっと取り払った。
青ざめた顔。色のない唇。束になって額にはりついた髪。
真理が見たことのないトコちゃんがそこにいた。







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