トコちゃんは、家から離れた悲しみなど、かけらも感じなかった。
周囲の人々があれこれと話をすることが楽しかった。 
自分に話しかけ、話を聞き、一緒に笑ってくれる。
それだけで最高に楽しかった。

椅子に座って待っていると、ごはんが出てくる。
おかわりもできる。
児相でもごはんは食べさせてもらえたが、日差しが明るいこの食堂でみんなと食べるごはんとは、味が違う。
美味しくて、美味しくて、最高に幸せだった。

毎日お風呂に入ることも知った。
白い泡がボコボコ出てきて、身体を覆う。
温かいお湯の中では、身体がふわふわする。
真理さんにゴシゴシ洗われる時はちょっと痛かったけど、その分、お風呂から出てバスタオルでゴシゴシされるのは、胸がドキドキした。
そして、自分の身体からふわ〜っと石鹸が香る。
こんな贅沢は味わったことがなかった。

洗濯というのは、1週間か10日に一度するものだと思っていたが、違っていた。
シャツやパンツは毎日洗う。
枕カバーやシーツもしょっちゅう洗う。
トコちゃんは洗濯機がグルグル回るところが好きで、真理さんに頼んで、いつもフタを開けておいてもらった。
二槽式の洗濯機は、洗濯槽と脱水槽を洗濯ものが何度か行き来する。
全自動と違って、洗濯槽の蓋を開けておいても動いてくれる。
渦巻がぐるぐると洗濯物を丸めこむ姿は、いくら見ても飽きない。
真理さんが洗濯ものを干す姿も大好きだった。
パンパンパンと手で叩くと、洗濯ものがまっすぐになるのが不思議だった。
こうするとアイロンがいらないのよ、と教えてもらった。
けど、アイロンが何かを知らなかった。

夜、洗いたてのシーツで寝るのは本当に気持ちがよかった。
ちょっとゴワゴワするシーツからは、いつも決まって真理さんと同じお日様のにおいがした。

真理さんは、いつでも自分を見ていてくれる。
誉められても、叱られてもうれしかった。
家にいたころは、それが当たり前で、何か辛いとか苦しいだとか、感じたことはなかった。
けれども、学園に来てみて、自分がどれだけ寂しく辛い場所にいたかに気がついた。

二度と、帰りたくない、帰るものかと思った。
私の母さんは真理さんでいい。







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