2学期が始まって5日目は金曜日だった。
前年から、学校は隔週で週休二日になった。
明日の土曜日は休みの方だ。

いつもより、早めに学校に出向いた幸子は、まっすぐ校長室を目指した。
なにを置いても、昨日心配をかけたことを詫びなくてはならない。
折よく、教頭先生もそこにいて、驚いたような、心配そうな視線を向けてきた。

「昨日は本当にご迷惑とご心配をおかけしました。申し訳ありませんでした。」
昨日は動転して、社会人らしい言葉は何一つ言っていなかったことが気にかかっていた。
「お怪我はいかがですか。」
教頭先生が幸子の七分袖の下を気にしている。
「おかげさまで、少し痛みますが、なんともありません。すぐに治ると医師からも言われています。」
「よかった。ちゃんと受診してくださったのですね。診断書をお出しください。加入していただいているボランティア保険を申請しましょう。」

教頭先生の思いやりに感謝を感じつつも、それには答えず、幸子は校長先生に向かって深々と頭を下げた。
「私が勘違いしていました。でしゃばったことをして、学校にもスミレちゃんにも迷惑をかけてしまいました。申し訳ありませんでした。もうお許しいただけないかもしれませんが、もう一度やり直すチャンスをいただけないでしょうか。」 

しばらく、校長先生からの答えがない。
幸子は恐る恐る頭をあげて校長先生の顔色を窺った。
校長先生は何事かを考えているようで、じっと幸子を見つめている。

「そうですね。こちらも遠慮をしてきちんと申し上げなかったから、こういうことになってしまいましたが、あなたがそこまでおっしゃるなら…。」
そんな言い方をする校長に、教頭先生は冷ややかな視線を送っている。
今、目の前で、この学校の管理責任者が、己の判断ミスの責任を善意の一般市民になすりつけようとしているのだ。
ふん、小さい男。
教頭先生は幸子と同じ女性としても腹が立った。 
これだから男は、と思った。 

しかし、その思いを表情に上らせるほど、うぶでもない。
「小林さん、大変にありがたいお申し出に感謝いたします。小林さんのお怪我は私の責任です。小林さんにお願いする仕事について改めてご相談させていただきたいのです。よろしいでしょうか?」
教頭先生の言葉に、幸子は涙を浮かべて承諾した旨を深いお辞儀で表した。

校長先生はご満悦だ。
ボランティアを失わずに済み、事故の責任は教頭が勝手に負ってくれると言う。
一晩頭を悩ませた問題は、自ら姿を消し、身の安全も保たれた。
これも日頃の我が刻苦奮励が為せる業と思うと、自然と頬の筋肉が緩んだ。

「では、小林さん、あちらでもう少しお話ししましょうか。」
教頭先生に促されて席を立った。
職員室に行くと、スミレの欠席連絡が入ったところだった。







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