「シンゴ。私、決めた。もう一度学校に行って、スミレちゃんのお手伝いをさせてもらえるよう、校長先生にお願いしてみる。今回のことは、私が悪かったわ。自分の立場も誤解してた。

立場の違いは責任の違い。
先生方は自分たちの思い通りに子どもたちを教え育てているけれど、その裏には、きちんと採用試験に合格して、長い歳月、この地域の教育を支える責任を負っていらっしゃる。毎日、長い時間学校に拘束されて、海外旅行だって届け出をしなければ行けない。海外旅行の許可が出るのは、長期の休みの期間だけなんだって。有給休暇で海外旅行は認められないそうよ。そうやって職務に専念する約束をしているから、子どもに自由に教えられるのね。

支援員は少し違う。1年間の契約で、お給料をいただくけれど、採用試験に合格した常勤の先生方とはやっぱり違うの。支援員は名前の通り、子どもや先生方の支援をするのが仕事で、自分が前面に立つのは本来ではないんだわ。

私は教育ボランティアなのだから、さらに無責任よね。交通費程度しか支給されない分、いつでもやめられるし、スミレちゃんが快適なように手を貸すだけ。それでもやってみたい、やらせてくださいと言ったのはこちらの方なんだもの。私のミスはきっと、矢口先生や校長先生の責任になるんだわ。

だとしたら、やり方を変えて、もう一度ちゃんとやってみたい。
このままでは、スミレちゃんに申し訳ないもの。
もちろん、スミレちゃんが受け入れてくれればだけど。」

「うん、わかった。それで、いいと思うよ。」
真吾の声が明るい。
「シンゴ、ありがとね。」
「なに?」
「シンゴがきちんと教えてくれたから、最短距離で考えがまとまったと思う。無駄に迷わなくて済んだのはシンゴのおかげ。それと、康平君が守ってくれたかな。」
「逆の時も頼むね。僕が迷っている時は、道しるべになってね。」
「じゃ、お互いさまってことで。ところで…」
幸子はクツクツと笑い声を立てながら言った。
「ちょっとお腹すいちゃったんだよね。来々軒の餃子定食が食べたいんだけど…。」
「しょうがない。退院祝いといきますか。」

真吾は、言われなければ言い出そうと思っていたお気に入りの定食屋へ、既に向かっているところだった。







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