「すごい!マリアンヌ、泳げるの?」
6年生のたっくんがマリアンヌに大きな声で尋ねた。
田端さんが「泳げるの?って、今泳いでいたじゃないか。ちゃんと見てなかったのか?」
と、たっくんの後ろから、半分叱るように声をかけた。
「違うよ。」
江夏先生が説明する前に、泳いで子どもたちの前まできていたマリアンヌの返事が聞えた。
「そうなのよ。私、泳ぐの大好きなの。今日はみんなが応援してくれたから、すごく気持ちよく泳げちゃった!」
「あのね、たっくんは私たちが使っている表現をまだ身につけていないの。だから、『すごい』『マリアンヌ』『泳ぐ』という単語はきっと、たっくんが言いたいことだけど、質問したかったわけじゃないんだ。その気持ちをくみ取って聞いてあげないと。あなたこそ、1学期の間、ちゃんと見てなかったの?」
江夏先生は子どもたちの前でも田端さんを容赦なく叱る。
「あ、そういえば。すいません。ゴメン、たっくん。」
この素直さが、田端さんのいいところだと、大岡先生の目は子どもたちを見ながら、耳が優しく聞いている。
「おまちどおさま!今度はみんなの番よ。バランスボールとメガホンをプールの中に投げて!」
マリアンヌから変な指示が出た。
子どもたちは「走らないで!プールサイドは歩く〜!」という江夏先生の声など聞えないくらい夢中で、ボールやメガホンに飛びついた。
物を投げてはいけませんと、いつも言われている。
学校の道具を投げるのは悪いことだと、言い聞かされている。
投げると叱られるし。
でも、本当は、投げるってちょっと楽しいと、子どもたちは誰もが思っている。
それが、許可が出た。
こんな大きなものを、こんなにいっぱい投げてもいいんだ!
子どもたちは次々に5つのバランスボールに飛びつくと、プールに向かって思いっきり投げ飛ばした。
次はメガホンだ。
ブンブンとプールに投げ込むと、すかさずマリアンヌの声が響く。
「さぁ、今度はみんながプールに入るよ。プールサイドに座って!足に水かけて〜次はお腹〜肩〜頭〜!」
とうとう子どもたちがザブンと水に入った。
きゃっきゃっとはしゃぐ子どもたちに、マリアンヌの次の指示が出た。
「プール一周旅行に出発!用意ドン!」
プールサイドに残っていた江夏先生が音楽をかけた。
あるこう あるこう わたしはげんき
あるくの だいすき どんどんいこう♪
音楽が聞えると、子どもたちはリズムに合わせて歩こうとする。
でも、水の抵抗を受けながら、この曲に合わせて歩くのはなかなか骨が折れる。
片手をプールサイドにかけている子もいるが、そのまま歩かせるように打ち合わせができていたらしい。
時々、先ほど投げ込んだバランスボールやメガホンをかき分けながら、ぐんぐん列になって歩いた。
25メートルプールを1周し終わるころには、子どもたちはもう疲れた顔をしてる。
なにせ、プールで音楽がかかったり、それに合わせて歩くなど、経験がないことだったのだ。
一度水からあがって、休憩することにした。
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コメント
コメント一覧 (2)
思ったことがありましたが、それを思い出しました
叱るときや否定することも
大切なことですね
言動やタイミングの修正は、子どもにとって大切な情報になりますね。
世の中は、何をやってもいいとか、いつやってもいいとかにはなっていません。
共に生きる力を育むには、自分と対象以外に、もう一人いるんだということを
徹底的に知ってもらう必要があります。
これは、昨今非常に大切な観点だと思っています。
自分とゲームだけの世界に埋没させてしまうと、大学生だって
社会人として幸せを感じられる人生を送るのは難しくなるでしょう。