小林幸子と書いてコバヤシユキコと読む彼女のことを、ここからはマリアンヌと呼ぶことにする。

真新しい上履きに履き替えたスミレと手をつないで、マリアンヌはたんぽぽ学級の教室に向かった。
「ここがしばらくの間、スミレちゃんの基地よ。」
「きち?」
「そう。ここに隠れていて、学校を探検するの。」
「学校を探検なら、東京でもしたよ。」
「うん。その探検とは、ちょっと、ちがうかも。」
「どうちがうの?」
「まあまあ、質問は後にして、まず探検第一号。スタート!」

教室のドアを開けると、そこに置いてあったのは”くねくねトンネル”だった。
三和体育(SANWATAIKU) くねくねトンネル500 (赤) S-7240


「何これ〜!」
スミレが叫ぶ。
「未来への、トンネル。さ、くぐって、くぐって!」
マリアンヌにうながされて、スミレはランドセルを背負ったままトンネルに入った。
四つ這いで前に進んでいると、トンネルの外から、マリアンヌがゆらゆらとトンネルを揺さぶる。
「きゃ〜やめて〜!」
トンネルの色が変わると目の前の色も変わる。もう少しで出口かと思ったら、急に大きくトンネルが動いた気がした。いつまでたっても出口がない。
マリアンヌが入り口と出口をくっつけてしまったのだ。
「あれ?まだ?あれ?」

たんぽぽ学級の子どもたちが何人か登校してきた。
くねくねトンネルをみつけると、カバンを放り出して入りたがった。
マリアンヌはすかさず、入口を開ける。
次々にトンネルに入って行った子どもたちは、慣れた動きでスミレに追いつく。
トンネルの出口から、スミレと一緒に子どもたちが団子になって出てきた。

「うわぁ、楽しかった〜」
「もう一回やってみたい?」
マリアンヌが茶目っ気いっぱいに尋ねると、たんぽぽの子どもたちがうん!と大きく頷いた。
「いこ!」
子どもたちは当然のようにスミレを促して、入口に向かう。
遊びは偉大だ。手続きなしに人と人を結びつけてしまう。
スミレはランドセルを投げだした。
他の子と一緒になってトンネルに入って行くスミレの姿を少し離れて見守っていた真理は、教室に入るというワンステップの間にスミレに友達を作ってくれたマリアンヌの手腕に、開いた口がふさがらなかった。






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