ミドリが意識を取り戻したのは、哲也の訃報が飛び込んできた日の夕方だった。
窓の外は、血を流したような夕焼けに染まっていた。
ミドリの両親と、警察から戻ったばかりの哲也の両親がミドリのベッドを囲んでいた。

「ミドリ、何があったの?!」
ミドリの母が問いかけた。
ミドリはぼんやりと母の声を聞いた。

まわりが白い。
ここはどこだろう。
首から下に力が入らない。

だけど、ここはどうやら安全なようだ。
何もわからないながら、何か大きなことが終わったような気がした。
それにしても、なぜ母がいるのだろう。

「ミドリ!いったい、何があったというのよ!」
何を騒いでいるのだろう。
「あなたをこんなにしたのは、哲ちゃんなの?そうなのね!」
ああ、そうか。
とうとうバレてしまったのか。

「よさないか。ミドリはやっと気がついたばかりじゃないか!」
父の声もする。

「ミドリさん。ごめんなさい。許して下さい。」
あ、お義母さん。
お義母さんにまで知れてしまったのか。

「私たち、本当は知っていたの。哲也が相談に来たのよ。どうしても、あなたを殴ってしまうって。でも、反省しているから自分でなんとかしてみると言うから、信じていたのだけど…。」

なんてこと。
お義母さんは知っていたのか。
私が必死で隠していたことを、前から知っていたんだ。
知っていて、何も、してくれなかったのか。

「でも、哲也は命がけで償ったの。許してちょうだい。許して…」
「おい!やめろ!」
お義父さん?なぜ止めるの?
お義母さんは今、なんて言った?なぜそんなに泣くの?
何か変なこと、言われた気がする。

「いま、なんて?命がけで、償った?」
「そうよ。哲也は亡くなったの。電車にとびこんで、自殺してしまった!」

ミドリは頭の中に空白が広がっていくのを感じるしかなかった。






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