26歳になったスミレに思い出せるのは、いろいろなことが起きた後の風景だ。
ミドリの実家で、おばあちゃんが作ってくれた朝ご飯を食べているところのような気がする。
ピントの合わない白黒写真のような記憶で、そこには動くものがない。

お泊りに行くときに、ママが新しいパジャマを買ってくれたことは覚えている。
でも、どんなものだったのかは思い出せない。
ただ、そのパジャマが嬉しくて大喜びしている女の子を見たような気がするだけだ。
まるで他人事のように感じる。

玄関で倒れているミドリを見つけ、一緒にいた幼稚園教諭が通報したため、救急車がやってきて、意識が戻らないミドリを担架に乗せて運んで行った時に、スミレも意識を失った。

スミレはミドリと同じ救急車に乗せられ、病院へと運ばれた。

ミドリは頭を強く打ち、脳しんとうを起こしたまま、長い疲労から意識を失っただけで、命に別条はなかった。
しかし、体のあちこちに怪我があり、誰かに暴行を受けたことは疑いようがない状態だったため、病院から知らせを受けた警察が、行方のわからない哲也を探した。

病院には、ミドリと哲也のそれぞれの両親がかけつけていた。
ミドリの意識が戻らぬまま翌朝になった。
スミレも眠ったままだ。
そこへ、哲也の情報が寄せられたのだ。

哲也は、その朝の始発電車にとびこんだ。
あとかたもなく破片となった哲也がすぐに哲也だとわかったのは、 彼が最後に立っていた場所に遺書が残っていたからだ。

すまなかった。疲れた。もう終わりにしたい。

ミドリに宛てた走り書きは、『パンダのマンボ』の箱で押さえられていた。 






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