お友達はみな、ママがお迎えに来て、家に帰って行った。
残っているのはスミレだけだ。
お泊りの翌日は、お昼ごはん前に家に帰ることになっている。
ママだってわかっていたはずだ。

スミレは不安でならなかった。
ママがお迎えにこないのは、何かあったからだ。
家までの道はわかっている。ひとりでも帰れる。
スミレは幼稚園を飛び出そうとした。

その手を、先生が引きとめる。
「ママ、きっと忙しいのよ。もう少し待ちましょう。」
「いや!帰る!帰るの!」
お迎えの時間を1時間過ぎていた。
泣きながら訴えるスミレを、先生も引きとめかねた。
「じゃ、先生が送っていくね。もしママがお留守だったら、幼稚園に帰ってくるよ。」
「はい。」

スミレは先生の手を引っ張って、急いで帰った。
「先生、スミレんち、あそこ!」
駆けだしたスミレが目指したのは、いかにも安そうなアパートの1階だった。
玄関のカギはかかっていなかったようだ。
スミレはすんなりとドアを開けた。

「ママ!」
ドアを半開きにしたまま、スミレが動かない。
先生は不審に思いながら、ドアノブに手をかけた。
「どうしたの?スミレちゃん。」

先生は、スミレと同じ光景を目にして悲鳴をあげた。
小さな玄関の左がキッチン、そのままリビングになっている。
その床に、ミドリが倒れていた。
頭を玄関の方に向けているが、顔が下になっていて表情が見えない。
周囲にはいろいろなものが散乱している。
一目で事件だとわかる状況だった。

「きゅ、救急車!」
先生は家に飛び込み、119番に電話をかけた。
間もなく到着した救急隊は、そのまま警察を呼んだ。
アパートの周りは二種類のサイレンで大騒ぎになった。

「ママ、ママ!」
スミレがいくらママを揺さぶっても、ママは目を覚まさなかった。
ママは担架に乗せられ、救急車に運ばれた。
スミレは不意に意識を失い、その場に倒れ込んだ。






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