「ねえ、ママ。ぼく、心配なことがあるんだ。」
「心配?どうしたの?」
 
ママがカレーを作る手をとめて振り返った。
ぼくはお絵描きに集中できない。
本当に、心配だからだ。
 
「あのね、1組のヒデ君、ママも知ってるでしょう?」
「もちろん。幼稚園も一緒だったヒデ君ね?」
「そう。体育の時間にサッカーしたんだ。1組と、2組と一緒に。」
「ワールドカップが近いからね!」
「うん。だけど、ヒデ君、この前も今日も、座って泣いていてサッカーしないんだ。」
「泣いているの?」
「うん。すごく泣いて、スミレ先生が話しかけても絶対に立たない。」
「あら、どうしたのかしら?サッカーしたくないのかな?」
「わからない。スミレ先生も困っているみたいなの。」
「そりゃ困るわね。でもヒデ君にも何か理由があるんじゃないかな。」
「う〜ん。ねえ、ママ。どうしたらヒデ君はサッカーするのかな。」
「それが心配なこと?」
「そうなんだよ。ヒデ君、サッカーできなくなっちゃうよ!」
 
ママはお鍋の火を止めて、ぼくの前に座った。
ぼくはお絵描きの道具を脇に寄せて、ママの顔を見た。
ママはきっと、とても大切なことを話そうとしているに違いない。
 
「ママにもよくわからない。でも、ヒデ君がこうしたらいいかな?って思うことがあったら、何でもしてみていいんじゃないかな。ジュンの気持ちは、もしかしたらヒデ君に伝わるかもしれない。でも…。」
 
ママは大人みたいな顔をして、ぼくをしばらく見つめた後、ちょっと難しいことを言った。
「でもね、焦らなくていいんじゃないかな。ヒデ君もジュンもまだ1年生でしょう?あなたたちにはこれから長い長い時間があるの。サッカーは、今すぐできなくても大丈夫。それより、ヒデ君には今、そこに座って泣いていることの方が大切なことなのかもしれない。長い目で見たらね。」
 
「どういうこと?」
「ん〜、ちょっと難しいかな。」
 
ママはまた立ちあがって、カレーのお鍋に火をつけた。
ぼくはママが言ったことをよく考えてみようと思ったけど、お腹がグーグー鳴って、カレーのにおいのほうが気になって仕方なくなった。
 
「ねえ、カレーまだ?」
ママはいつものママの笑顔で嬉しそうに言った。
「もうすぐよ。」






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