ママが泣いている。
今日、ママはチヨコ先生に呼ばれて、学校に行ったはずだ。
ママはスーパーのお仕事が忙しいから、ぎりぎりまで働いて、ちょっとだけお休みをもらって学校に行き、またスーパーにもどる。
いつものことだ。
 
「ママ、どうしたの?」
ママはずっとシクシク泣いていて、理由を教えてくれない。
こんな時は、しつこく理由を聞いてはいけないのだと教えてくれたのはママだ。
 
「あのね、ジュン。大人にだって泣きたい時はあるの。悔しかったり、腹が立ったりするの。一生懸命やっていると意見がぶつかるのは当然。我慢できないことがあるのは正常なの。そういう時はくやしい!って泣いて当たり前なのよ。我慢するほうが不健康。でも、その気もちを他の人にまで広げなくてもいいのよ。だから、ひとりで泣くの。理由をくどくど説明する必要はないの。」
 
よくわからない。
ぼくはあまり泣かないけど、ときどき泣いてしまう。
そんな時、ママは黙ってぼくを見ている。
優しい顔でぼくを見ている。
ぼくはだんだん泣かなくてもいいような気持ちがしてきて、泣いちゃったことが恥ずかしい気がして、ママのほうをちょっと見る。
そうすると、ママは決まって言うんだ。
「ねえ、ジュン。お腹空いたね。何か食べようか!」
それで、ぼくの頭をぐるぐる撫でてくれる。すごくうれしくなる。すごく。
 
だからぼくも、泣いているママの隣に座って黙って待っていた。
しばらくすると、ママは涙を拭きながら言った。
「チヨコ先生がね、ジュンはとっても伸び伸びと楽しそうだって言ってた。ママは嬉しかったなぁ。ママはね、ジュンが幸せだったら何ができてもできなくてもいいの。今日はすごくイヤなことがあったけど、チヨコ先生が教えてくれたジュンのことを思い出していたら、イヤなことなんかどうでもよくなっちゃった。」
 
ぼくはママの頭をなでなでした。
ママの長い髪はとてもきれいで、サラサラする。
「ママはえらいなぁ。今日はごほうびにおいしいものを食べよう!」
「え?おいしいものって何?」
「マクドナルド!」
「だめよ。サンキューセットはないし。」
「いいって、いいって。今日はトクベツ。ママにごちそうだよ。」
「そっか。ま、いっか。今日はぜいたくしちゃおうか。」
「そうそう。ママ、大好き!」
 
ママはまたポロポロッと涙をこぼした。
「あ〜、ほんとに、ジュンを生んでよかったなぁ。ママはうれしい!」
 
そうか、うれしくて泣くこともあるんだね。






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