浅草寺のまわりは、外国人観光客でごったがえしている。
寄席の前では客引きをする声が、まるで時代劇のように響いている。鬼平さんの時代にも、こんな声がしていたのかな?と思う風情だ。落語家さんのラインナップを確認していると、くまさんが後ろからボソッと言う。
「U字工事は出ないのかな?」

お笑い芸人に詳しいくまさんが、生で観たいのがU字工事だとは驚いた。へぇ。でも、確かに観たい。
「U字工事さんが出るなら、この先の予定を変更しても見て行くのにね。」
「残念。出ないみたいだ。」

我が家は地方ネタ、方言ネタが大好きだ。 

地図を何度か確認しながら、店を探す。こういう時、私はあまり頭を使わない。使っても使わなくても、方角は分からないからだ。くまさんと一緒の時は、たとえ間違えても、任せておいた方が平和だ。
「多分、この道の先ですよ。」

井泉看板「あ、あった!」
今日のお昼は「とんかつ 浅草井泉」だ。

本当は、上野のイタリアンにしようと思っていた。夕食なら、ワインバーもいいかなと考えた。くまさんに内緒で、こっそり予約して、デザートになったら盛り合わせのプレートにチョコレートペンで「Happy Birtuday くまさん!」と書いてあるのが出てきたらびっくりするに違いない。ベタな話だが、こういうことはしたことがないので、面白いかも?と思っていた。

ところが、私がお客様からもらった菌はインフルエンザ菌だった。苦闘数日、発症しないで済んだものの、闘い終えたら3日前までという予約期間も終わっていた。

ああ、残念。

「チーフ、上野あたりで何かおいしいランチのお店、ご存知ありませんか?」
「ランチ?」
「はい、夫と私の誕生日で、かつ結婚記念日なんです。でも、オシャレなお店はダメです。以前こんなことが…」
「なるほど〜。ありましたね、かつですが。」
「かつ?」
「とんかつ屋さんです。お箸で切れる、ソフトなとんかつが絶品でしたよ。」

チーフは雑誌に載るような美味しいお店に通じていて、要望を伝えると即座に教えてくれる。仲の良いご主人と、毎週末HANAKOを片手に食べ歩きに行くのだ。

井泉本店は上野広小路にあるとのこと、チーフが教えてくれたのはそちらだったが、 動線の都合から、今回は浅草店を訪れた。

引き戸を開けると、座席はほぼ埋まっていて、奥の座敷のテーブルがひとつあいてい、そこに着かせていただいた。おかみさんが明るくシャキシャキッと音がしそうな方で、お勧めのメニューなどを教えてくださる。ロースかつとヒレかつの定食を注文することにした。

井泉ヒレかつ

こんなかつがあっという間にやってきた。衣が揚げたての証拠にジュワジュワと音を立てている。

本当に、かつなのにお箸で切れる。口に入れた時、脂身がじゅわわ〜っと溶け出すロースカツの方が私の好みだった。それに、ご飯のおいしいことと言ったら!お米が一粒一粒自己主張している。パンッと張りのある粒が内側はふっくらとしている。「こんなにおいしいご飯を食べたのは初めてだ!」くまさんも満足の様子。よかった、よかった。

お腹がいっぱいになったところで、地下鉄に乗って上野へ。
さあ、いよいよ王羲之展です。






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