円空仏に浸ったあと、東京国立博物館の本館に入ったのが久しぶりだったので、2階に上がってみようかということになった。

まずは、「皇室日記」で知った、高円宮の根付コレクションの部屋だ。
http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=3260 
根付は江戸時代のストラップと思えばいい。ストラップなので、現代も作家がいる。実に精巧でかわいらしい作品が並んでいる。チーズをかじっているネズミなんか、ポケットに入れて持って帰りたいかわいさだ。

次に左右を見て、「天下人の実像」という展示を見ることにした。
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1595
織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の3人に焦点を当て、彼らの肖像画の数々や直筆の手紙を集めた展示だ。

信長と言えばあの顔と知っているもの以外にも、肖像画は残っている。それぞれテイストは違うが、共通点を探していくとどうも、気性の激しい、扱いにくそうな人柄が思い浮かぶ。これは、信長本人を複数の人が見て描いたわけではなく、誰かが描いた絵を後世、別の人が写した可能性も高いから、一概には言えないけれど。

秀吉もそうだ。ドラマではわがままでひょうきんな人柄がクローズアップされることが多いけれど、肖像画を見る限り、この人も神経質そうだ。細かいことをくだくだしく考えていそうな顔をしている。

家康さんに至っては、すでに妖怪の雰囲気を醸し出している。あれだけのことを成し遂げるには、清濁併せのむ程度では済まなかったのだろう。でも、意外とかわいいタヌキやイノシシみたいな気もする。

面白いのはそれぞれの人が書いた手紙だ。
文字は人柄を表す。
手紙となれば、その内容を含め、人柄が前面に出てくる。

展示には、いつだれにあてて書かれたものかの解説が簡略についているが、文章の細かい訳はない。もったいないことだ。

運よく私は文学部で古典専攻だったため、ちょっとだけ万葉仮名が読める。古典文法もひとしきりわかる。少し時間はかかるが、手紙を読んで訳すくらいのことはなんとなくできるのだ。

秀吉さんは書く。バラバラの文字が躍っている。
「ねねはごはんを食べたか?他の皆は食べたか?○○に気をつけるように。子供もごはんを食べたか?もうすぐ帰れると思うからね。」
「そんなにごはんのことが気になるのかね?」私の訳を聞いてくまさんが笑う。「天下人のくせに、意外と細かいことを言うんだね。」

家康さんは書く。ちょっと文字が緊張して見える。
「ご機嫌いかがですか。あなたのご機嫌がすぐれないのは残念です。ほしいものは何でも買ってあげるから、この手紙を持って行った○○に言いなさいね。」
孫の千姫のご機嫌をとっている手紙だ。
ほかに打つ手がないから、物で解決しようという、不器用なおじいちゃんがそのまま手紙に出ている。1615年大阪夏の陣で、豊臣秀頼の妻であった千姫は「救出」されて徳川に帰っている。この「救出」が彼女の本意だったかどうかは、この手紙を見る限り怪しいものだと思う。

同じ家康の手で、右筆にあてて「○○さんへのおみやげを何でもいいからみつくろって贈っておきなさい」なんてものもある。「○○さん、先日はミカンひと箱わざわざ送ってくれてありがとう。」なんてものもある。

どれもこれも、実に興味深い。
歴史の教科書に出てくるあの有名人たちも、普通に生きていたんだなぁなんて、不思議な気持ちになった。
「どうせなら、あなたが話してくれるようなものを、解説につけておいてくれたらいいのにね。」くまさんも面白かったようだ。

「さ、もう3時過ぎですよ。王羲之展は…」
「無理ですね。心身ともに、もう歴史の重みに耐えられない。」珍しくくまさんが先に音を上げた。私も同意見だった。もう一回、上野に来ましょうということになった。







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