年末近い、ある日のことだった。昨年新人研修を担当したMさんが、珍しく自分からやってきて、困った顔をしている。Mさんはとても実力がある人で、2年目の今年度はある部署のチーフを任された。滅多なことでは愚痴も泣き言も言わない。たまに、爆笑できるような言い訳をするが、ご愛嬌と言うものだ。
「どうしました?ずいぶん頑張っている様子、ちゃんと見てますよ。」と言うと、暗い顔でため息をついたMさんは、ぼそぼそと話し始めた。
「来年度に向けて、いろいろ変えるように上司から言われているんです。でも、部署の人と話し合おうとしても、全然進まなくて…。」
「どうして進まないの?言われている改革に反対ってこと?あのメンバーは嫌いそうな内容だもんね。」
「それもありそうですが、それより…。」
「他に理由があるの?ちょっと思いつかないけど。」
「はぁ。会議をしますよね。最終提案に向け、話し合いや準備のタイムスケジュールを出すじゃないですか。」
「はいはい。それがチーフの仕事ですもんね。」
「そうなんです。だから、出すんですけど、ちょっと案件が重いから、定例以外の会議も設定しないと難しいんです。」
「うんうん、そういうこともあるでしょうね。」
「するとですね、皆さん、スケジュール帳を開いておっしゃるんです。『これ以上会議は入れられない、忙しすぎる』って。」
「ほう、あのメンバーならありそうなことですね。」
「そうなんですけど…。私、理解できないんです。」
「理解できない?」
「だって、ほかの会議がない日を指定しているんです。皆さん、予定の隙間が埋まってしまうことを『忙しい』といって嫌がるんです。私は、目いっぱいに埋まっているスケジュール帳を見ると、『今月も充実しているなぁ』って嬉しくなるんです。」
「ほう、なるほど…。」
Mさんが滅多に言わない愚痴を言う相手に、なぜ私を選んでくれたのかよくわからないが、この話にはハッとした。
なぜなら、私もMさんを悩ませている他のメンバーと同じで、スケジュールは空欄であればあるだけ嬉しいからだ。埋まりに埋まったスケジュール帳を持っているが、それを『今月も充実しているなぁ』なんて思ったことはない。『ああ、今月も目いっぱいだ』とげっそりしている。
Mさんがポジティブ思考の持ち主だから、そういう考え方をするわけではない気がした。これは、生き方の違いから生まれる差異だろう。
「抵抗は感じるでしょうけれど、それでも自分が提案したように推し進めて行く力を発揮してもいいんですよ。その力を持っているんですからね。」
「いいんでしょうか?」
「それが、チーフですよ。」
「はい!わかりました!無視するんじゃなくて、抵抗を感じながら進めるというのが気に入りました!これは、一層やりがいがありますね!」
何か、とてつもないヒントを得た気がしたが、その時はそのまま通り過ぎてしまった。
次回につづく

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コメント
コメント一覧 (4)
私も予定表が真っ黒だと安心します
忙しいと倍も3倍もこなせます
ところが先方の都合で予定がキャンセルになると
不貞寝するしかありません
何をしても、おもしろくないのであります
そうですね
いろいろな感じ方がありますね。
それにしても「不貞寝」って、漢字がおもしろいですね。
なにやらよからぬことをしながら寝ているような気がして…
私も、そういう風に書くの、はじめてしりました。
私も、忙しい方が、安心する方かな・・・
そうですかぁ。忙しい方が「安心」ですか。
私は不貞寝しているのも結構好きなんですよね。
だってそのすき間って、何にでも変えられるじゃないですか。
埋まっていると、その「自由」がない気がするんですよね。
で、それが続くと追い詰められた気がしてきてしまいます。