私とかあさんは、お互いの顔を見つめて、なんだか笑いあっていました。私は不幸な事故で弟を亡くし、かあさんは思いがけない病気でお母様を亡くそうとしています。笑顔は不謹慎かもしれません。けれど、私たちは笑顔を選ぶことにしたのです。

かあさんは、すっかりぬるくなったアイスティーの残りを飲み干しました。その姿からは、茶葉を育てた農夫や紅茶に仕立てた職人、水道を引いてくれた人やグラスを作ってくれた人、この紅茶を運んでくれたウエイトレスに至るまで、あらゆる人に感謝しているような、何か神々しいほどの明るさを感じるのでした。

「ねえ、弓子さん。私たち、大事なことを忘れているわ。ここはディズニーランドよ。私たちときたら話したり歩いたりするばかりでしたけど、今度は何か乗り物に乗ってみませんか?どんなものが人気なのかしら?」
「そうですね。でも、人気のものはひとつ乗るのに2時間くらい並ばないといけませんよ、きっと。」

その時でした。控えめな、聞き覚えのある声がしました。
「あの、お嬢様。」
「まあ、後藤ではありませんか。もしやと思っていましたけれど、やはり来ていたのですね。」

「申し訳ございません。何せお嬢様が初めてのディズニーランドでございますから、ぜひともお楽しみいただきたいと思いまして。乗り物にとおっしゃるのを待ち受けていたのでございます。

手の者をすでに並ばせておりますので、大してお待ちにならずとも、お望みのものにお乗りいただけます。ホーンテッドマンションはあと10分ほど、スプラッシュマウンテンが12分後、ここから一番近いビッグサンダーマウンテンは8分後…」

「かあさん、後藤さんがいらっしゃる限り、かあさんは『長い行列で待ちくたびれる』という感情の経験はできなさそうですね。」
「いいえ、弓子さん。今日はあなたが『長い行列を待たずに望みをかなえる快感』を味わう日にいたしましょう。さ、後藤。あなたも一緒に乗るのよ。その、一番近いのからでいいわ。参りましょう!」
 
「え!!!あの、お許しください。あ、おやめください。いえ、お伴が嫌なのではございません。わたくしは…高所恐怖症なのでございます〜。あ〜〜〜〜」 






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