また少し歩いて、私たちはかわいらしいたたずまいのレストランに入りました。喉が渇いていました。こんなに炭酸を飲みたいと思ったのは久しぶりでした。かあさんはアイスレモンティーを注文しています。ただ歩くだけでも、ここは広すぎます。
「あれは何歳の出来事なのか、両親についての最初のほうの記憶で、私は既に母を大好きだとは言えなくなっていたのだと思うのです。庭にね、ハトがたくさん遊びに来ていたの。餌をまいてあげると、みんなツンツンとかわいらしく食べていてね。」
不意にかあさんが話し始めました。私は黙って聞くことにしました。
「父が教えてくれたの。花亜、ハトはね、餌をあげてそっと動かないで見ていると、餌がなくなっても花亜の傍にいるよ。花亜が無理に捕まえようと脅かしたり怖がったりしなければ、ずっと傍にいるって。本当だったわ。私、ハトと仲良しになれたの。
でも、母は違っていた。ハトは餌をやるから寄ってくるのよ。だから引き付けたい時は餌をやればいいし、ずうずうしくもっともっとと寄ってきたら追い払ってやればいい。でも、ハトは餌がほしいから、何度追い払っても寄ってくるのよって、ハトを追いたてるの。私、それを見て、母の考え方をとても憎んだわ。
母にそれは違うと思うと言うと、いつもやり込められた。お前はハトと仲良くなった気になっているかもしれないけど、それは勘違いというもの、ハトはお前が好きなわけではなく、お前が持っている餌が好きだから寄ってくるだけだって。悲しかったわ。
父といると、私は心から穏やかになれたわ。父は『受け入れる人』だった。よいことばかりでなく、厳しいことも辛いことも、悲しいこともたくさんあったでしょうに、それを受け入れ続けた人だと思うのです。だから、母の在りようもきっと受け入れたのでしょう。
母は『拒む人』だったわ。自分の思い通りにならない人や物事を全て拒んで切り捨てて生きているように見えていたの。私は母といると落ち着かなくなった。いつ自分が切り捨てられるかわからない恐ろしさに、こころがざわめいて、穏やかではいられないの。

人気ブログランキングへ
コメント