融は、息を引き取る直前に、おかしなことを言いました。「姉さん…被害者…いけないよ。」あれからずっと考えているけれど、意味がよくわかりませんでした。弟は何を言いたかったのでしょう。被害者とは誰のことでしょう。
それも、このカピバラ食堂で働いているうちに分かるのではないかという予感がしました。いえ、予感ではなく、期待したのかもしれません。とにかく、私はカピバラの絵が入ったエプロンをして、ここで働けることになりました。
翌日、かあさんのお母様とおっしゃる方がみえました。かあさんは何とも品の良い方だなぁと思っていましたが、どうやらとてつもない財閥のお嬢様のようです。そのお母様が、かあさんと同居することになりました。
そんな財閥のお嬢様がなぜ、言っては何ですか庶民の代表のようなおやじさんと結婚し、エプロン掛けて一日中働いているのか、私にはまったく理解できません。それ以上に理解できないのは、そのお母様です。
素直と言えば素直なのでしょう。思ったことをそのまま遠慮なく口にされるようです。私が初めてお会いした時の一言は「あら、辛気臭い顔をして。」でした。それはそうでしょう。今陽気な顔をしろと言われても無理ですもの。
お母様は癌を患っていて、余命いくばくもないとおっしゃいます。それでずっとお暮しだったパリを離れ、帰国されたようです。望めば、いくらでも最先端医療を受けられるんでしょうに、どうして今、ここにいらっしゃるのでしょう。
ともかく同居が始まりました。かあさんは日に日に顔色が悪くなって、無口になっていきました。反対に、ユニクロのTシャツを嬉しそうに着たお母様はどんどん元気になっていくようです。それは、いたたまれない光景でした。
コメント
コメント一覧 (2)
うまいですね
展開のしかたが、舌を巻きます
1ヶ月分を書かれたとお聞きしております
多忙に帰宅が深夜になったり帰られなかったり、
あらためて追われる身の私のは、品質が落ちている気がします
おほめくださってありがとうございます。
お忙しいのですね。
まだまだ暑い日が続きそうだから、
お体を大切になさってくださいね。
『カピバラ食堂』も、構想は終わりまで出来ていますが
文章は中断しています。
仕事の後では冴えた表現も浮かばず、睡魔に襲われるばかりです。