どうも、勘助です。
おやじさんが市場から帰ってきました。カラカラッと引き戸が開き、ものすごくごきげんなおやじさんの顔がのぞきました。私はそれだけでホッとします。

「今日はどうでした?」かあさんはいつものように問いかけます。おやじさんは、つまるところ、「今日は新装開店で」と繰り返して、ずいぶんご祝儀をいただいてきたようです。食材もいつもよりよいものが手に入ったのでしょう。

「しばらくお休みしたから、きっとお客様はあなたのお料理を食べたくて、待っていてくださるわ。」かあさんの言葉に、おやじさんは胸を張ります。そういえば私は、かあさんがおやじさんに「しっかり」とか「がんばれ」というのを聞いたことがありません。

それなのに、おやじさんはかあさんの言葉に支えられているのです。この店の椅子になることができて、本当に幸せだと感じるのはこんな時です。机の半兵衛も、向かいの椅子のお美代も、きっと同じ思いです。我々はこの夫婦を心から愛しているのです。

おやじさんが、カゴの下からもぞもぞと紙袋を取りだしました。少し角が折れて、しわが寄った袋の様子から、今朝手に入れたふうを装っているけれど、ずいぶん前に用意したことが見てとれます。

「かあさん。これ、オープン記念にプレゼントだよ。今日からはこれをして働いてほしくてね。」「まぁ!」かあさんは本当に驚いています。私に腰掛け、丁寧に包みを取り出し、そっとピンクのリボンをほどきました。

「これ、まぁぁ!!」かあさんは絶句します。澄んだ瞳にじんわりと涙が浮かんでいます。あなた、これ…これ…!」包みから出てきたのは、生成りのエプロンでした。裾に大きなカピバラがプリントされています。







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