どうも、勘助です。
かあさんの顔色はただごとではありません。「お母様はパリにいらっしゃるのではなかったの?どうしてまた、そんな気まぐれを…」

「はい。大奥様の気まぐれはいつものことです。終生パリでとおっしゃっていたのをお忘れのように、ご帰国なさいました。いまは葉山でご静養中ですが、花亜さまとご同居なされたい由、お伝えするようにとのことでございました。」

かあさんは、ふらふらと私に腰掛けました。背もたれから、かあさんの震えが伝わってきます。「だって、私、夫には両親はとうに亡くなったと話していますのに。どうしましょう。お母様は私の暮らしをご理解なさっていて?」

「はい。それはもう楽しかろうとお思いになって、はしゃいでおられます。昨日は私を葉山にお呼びになり、ユニクロへ服を買いに行くお供をいたしました。スヌーピー柄を中心に、50万円ほどもお買いそろえになってございます。」

「おお。」かあさんはほとんど泣きそうな声です。
「お嬢様。大切な朝にこのようなお話を持ち込み、大変申し訳ございません。日を改めてご相談に参ります。どうか、よき開店日になりますように。」

後藤と呼ばれたヒツジもどきは、音も立てずに去って行きました。かあさんは半兵衛に肘をついたまま、深い深いため息をつきました。「生まれた時から服はすべてオーダーメイドのお母様がユニクロ!?どうしましょう。」

かあさんは、カウンターの上にかかった丸い時計を見上げました。そろそろおやじさんが帰ってくる時間です。かあさんは大きく深呼吸をして立ちあがりました。「まずは、今日一日を幸せに暮らすことね。」