どうも、勘助です。
開店の朝になりました。おやじさんもかあさんも、あまり眠っていません。おやじさんは、朝早く市場にでかけました。いつものことです。

かあさんは半兵衛や私たちのことを丁寧に丁寧に拭いてくれます。床もすでにピカピカなのに、また磨いています。それから、市場から帰ってきたらおやじさんにプレゼントする包みを、そっと撫でてからカウンターに置きました。

ガラガラ。引き戸が控えめに開きました。かあさんの声がします。
「あら、後藤。しばらくね。お元気でした?」
「お嬢様。新装開店と聞きまして、お祝いのお花を届けに参りました。」

「まあ、よくご存じね。」
「執事たるもの、お嬢様のことなら細大漏らさず何でも…」
「おやめなさい。それは去年流行ったドラマのセリフでしょう?お兄様ね?」

黒い服の初老の男性が入ってきました。かあさんが、いつもとは違った人になっています。この男性は、いつも決まって、おやじさんが留守の時にやってきます。そうしてかあさんを「お嬢様」と呼ぶのです。

「旦那さまと奥さまもお越しになりたいとのことでしたが、来月から那須のご別邸にお引越しになることに決まり、お忙しいのです。麹町のご本宅は花音さまご夫妻がお守りになります。旦那様は花亜様にもお屋敷をとおっしゃっていますのに。」

「まあ、そうでしたか。ありがとう。那須の家ならお兄様がたもお心のびやかに暮せますね。でも、お兄様のお気持ちはありがたいけれど、わたくしにお屋敷は似合わないわ。このお花だけで十分よ。後藤はどうするの?」







人気ブログランキングへ