弓子姉さんを改めてよく見ると、服装も髪型もメイクも、以前とまったく違うことに今更ながら気付きました。

「そういえば姉さん、今日はお化粧していないね。」
「うん。本当のことをいうと、最近気持ちが沈んで何もする気になれなくて。今日も劇はちょっと見たかったけど、支度が面倒と言うか…。」
「僕は男だからよくわからないけど、女の人って、元気がなくて顔色が悪いから、きれいにお化粧したくなるものなんじゃないの?」
「まぁ、そういうこともあるかな。でも、もともと美人じゃないし。」
 
「髪もずいぶん伸びたね。」
「ええ、まぁ。ほら、細くて少ないから、こうして伸ばして縛ってしまうと簡単なのよね。」
「前はパーマかけたりしてたよね。」
「うん、でも、あれ、ぱっと華やかな感じで、私には似合わないでしょう?」
「ねぇ、姉さんは何歳になった?」
「何バカなこと聞いているの?自分の年に11足せばいいでしょ。今年35歳よ。悪かったわね。いい年をして、こんなみっともない姉さんで。」

弓子姉さん。
僕は姉さんのことを何も分かっていなかったようです。姉さんの心の奥をこうして目の当たりにして、僕は自分がいかに子どもだったか思い知らされました。姉さんの明るく見目よいところしか見ていなかったのです。優しい笑顔の向こうに、子どものまま置き去りにされたような心があったのですね。

根掘り葉掘り聞きたいことは山ほどあったけれど、うまく言葉にならなくて、ふたりでひとつのカピバラオムレツを食べた後、姉さんをマンションまで送って行きました。ほとんど何も話さずに。僕はこう見えても人の相談に乗るのが仕事です。大したキャリアじゃないけれど、姉さん以上に悩み深い人の相談に、毎日抱えきれないほど乗っているのです。

なのに、不甲斐ないことに、初めて姉さんの苦しみらしきものの正体に気付いた今、僕は言葉を失ってしまいました。なんて言ったらよかったのでしょう。いや、明日連絡するとしたら、何と言えばいい? 







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