「ちょっと、何で観劇にノースリーブで来るの?スギちゃんじゃあるまいし。」
弓子姉さん。姉さんのそんな言い方が、僕はとても好きなのです。
「上着は持ってきているからいいじゃないか。歩くと暑いんだよ。」
地下鉄は結構空いていて、乗った途端に座れたから、僕はすぐに眠くなりました。ふと目を覚ました時、姉さんが両手の親指を動かして打っているメール画面が見えてしまいました。長い髪が横顔にかかっていて、きっと僕が起きたことには気付いていなかったでしょう。
「体調が悪いわけではないの。最近、どうも鬱みたい。用事がない限り外には一歩も出ないで寝てばかりいるの。彼とは今も続いているけど、うまくいっているってわけじゃない。一度にひとつのことしか考えられないから。彼のことは今考えられない。」
僕は、見てはいけないものを見てしまいました。僕にとって弓子姉さんは、理想の女性なのです。歳が離れているので、僕が中学校に上がった時にはもう、姉さんは家を出て、一人暮らしを始めていました。姉さんはめったに実家には帰ってきません。でも、僕には時々こうして連絡をくれ、食事やコンサートに連れて行ってくれます。
こんないい人がいるのだろうかと、姉さんを見ていると思います。僕がしたいことや考えていることは、いつもすべてお見通しです。わざわざ口に出して頼まなくても、さりげなく叶えてくれます。仕事に情熱を持っていたし、腹が立つこともあるだろうに、人の悪口を言うところを見たことがありません。いつも自分のことを後回しにして、今困っている人のことを考えている女性です。
贅沢など知らないようで、いつも質素だけど清潔感が漂っています。一緒にいるとホッとして、自慢で、姉さんがいつかお嫁に行くのかと思うと、なんともいえない気分になるのです。「姉さんがお嫁に行かずにお婆さんになったら、僕が養ってあげるよ。」そういうと、姉さんはいつも笑います。「嫌よ。」
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コメント
コメント一覧 (2)
理想と言わないのは、それほどHikari さんを存じ上げている訳でもないのに
失礼だからでしょうか
Hikari さんのすばらしい部分しか知らない私です
ブログは便利ですね。
自分の見せてよいところだけでお付き合いができてしまいます。
全部見たら…
惚れちゃいますかもよ
ほほほ。