お客様がポロポロと大粒の涙をこぼして泣き出した。それでもナナは言葉のシャワーを浴びせかけながら、自分の主張を曲げようとしない。確かに、手順書通りならそうだろう。しかし、目の前のお客様を見たら、そんな無理強いはできないだろうに。

私の心が悲鳴を上げる。もう、黙って見ていられない。「ちょっと待って。今、お客様が泣いていることに気付いている?」「はい、わがままをおっしゃっていると思います。」泣いているんだぞ。その上、本人の前でそんなことを平然と言うか。

「わがままではありませんよ。」私はお客様の気持ちを代弁する。「つまり、あなたの初期対応からずっと耐えていらしたけれど、もう我慢できなくなられたのですよ。」ここまで言われてやっと理解したナナは、どうしていいか分からない。

私が代わってお客様にお話しする。「申し訳ありませんでした。お辛い気持ちにさせてしまいました。」お客様は涙をぬぐいながらおっしゃる。「わかってくださればいいのです。今後はあなたとお話ししたいです。」また私の仕事が増える。

もしも私の仕事が、ナナのような特性を持った人が社会の一員として生きていくための支援をすることであれば、それはそれでいい。しかし、私には本来の職務があり、ナナの支援は業務外といえる。OJTが大切なことはわかるが、限度を超えている。

しかも、私が今回負っている特殊任務は、ナナを支援することですらない。ナナがどのくらい「できないか」を明確にすることなのだ!つまり、失敗直前に修正するのではなく、失敗するまで見守って、事情を聞き、後始末をする。

目の前で、私の理想が崩され、お客様が傷つき、問題が発生する。かみ合わない会話、こじれた事故処理。どれだけ辛いか。それを繰り返しても、ナナに変化は見られない。当然だ。変化が見られないことを証明するための毎日なのだから。





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