今年も北海道から極上のタラコが届きました。ということは、鎌倉のお宅へ先生をお訪ねする季節が来たということです。ご健勝でしょうか。奥さまはいかがお過ごしですか。昨年は風邪を召されていて、お話が叶いませんでした。

政局の混迷ぶりは、日々お耳を汚している通りです。大臣と呼ばれて答弁している私の姿を恨みの眼差しで見ている国民が多いのは、重々承知しています。政治は、国民が思うほど、単純なものではないのですが…。

毎年、先生のお宅に伺って、あのお日様がさんさんと降り注ぐリビングで、白いマリア像にやさしく見降ろされながら先生ととりとめもない話をしていると、大学の薄暗い研究室で先生と政論を戦わせた日々を思い出します。

白いエプロン姿で、先生好みの焼き加減になるよう慎重にタラコを焼いていらっしゃる小柄な奥さまが、時折こちらを振り向いて、鈴を振るような声でお笑いになるのを聞いていると、体に溜まった毒が消えていくような気がします。

先生と差し向かいで、タラコをつまみに酒をなめている間は、門の外に黒い車とSPが待っていることも、分厚い書類の束も、何もかも忘れて学生に戻ります。そうして、そのうち、政治への情熱を思い出すのです。

私は、何と言われてもよいのです。唾を吐きかけられても気にもなりません。ただ、この国の将来に、わずかでも、負債ではなく財産を残したい一心です。死後100年、あの時のあの大臣はよくやったと言われればそれでいい。

また真っ赤なバラの花束をお持ちしますから、奥様に花瓶をすべて空にしてお待ちくださるようお伝えください。今年の酒は青森のです。遠足を待つ子供のような気持ちで、先生にお目にかかれることを楽しみにしております。




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今日は、高校生のの私が、今は亡き文学博士のお宅で実際に目にしたことをベースにしています。テレビで見るしかめつらしい大臣が、あんな笑顔の優しいおじ様だった衝撃は今でも忘れません。