拝啓 梅花の候、先生におかれましてはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。小生、昨日傘寿の祝いをしていただきました。まさか80歳まで生きようとは。先生は今年白寿をお迎えのはず。慶賀に堪えません。

本日このように改めて筆を執りましたのは、先生にどうしてもお伝えしたいことがあるからです。黙っておるほうが小生の矜持は保たれると存じております。が、このままでは死んでも死にきれぬのです。

先生が担任をしてくださった年。ひどく暑い、蝉の声が騒がしい夏の日のことでありました。先生は掃除をせずに遊んでいた生徒を厳しくお叱りになりました。共に掃除当番であった級長の小生も、先生のお叱りを受けました。

先生は、己が責任を果たせないのは男子として許し難しと、お手持ちの物差しにて我らを打擲なさいました。その上、反省を促すため、廊下に立たせておかれました。折しも母が、その列に連なる小生を見ておりました。

あの時、小生は友に恨まれることをも顧みず、級長として掃除をするよう言い立てておりました。友は我が言葉を容れず戯れておりました。そこへ先生がお越しになったのです。先生は我が言葉を聞き苦しい言い訳となさいました。

我が子が級長であることを心ひそかに誇りにしていた母は、家に帰るなりさめざめと泣いておりました。母は先生のご指導に間違いなどあるはずがないと信じ、我が息子を恥じてやみませんでした。私は怒りに燃えました。

あの時の悔しさは消えず、折に触れ蘇り、少しも色褪せることなく小生を苦しめます。未だあの時の先生のなさりようを承服致しかねるのです。この苦しみから逃れるには先生にこの恨み、お伝えするしかないと思い至った次第…




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今日もフィクションです。ただ、以前、70歳を越えても小学生の時に叱られたことが忘れられない、という話を聞いたことがあり、参考にいたしました。