先生、お元気でいらっしゃいますか。きっとご活躍のことと思います。
先生がいらっしゃらなくなってから、この病院は火が消えたように寂しく、患者さんも減って、私はあれほど誇りを持っていた仕事への意欲を失いました。

自分が生まれた場所が都会だということ、その都会に住んでいることの意味を、こんなふうに考えたことは今まで一度もありませんでした。患者さんは歩いて10分ほどの間に、あらゆる診療科がそろっていて、好みの病院を選べます。

医師の仕事も、治療と、学会と、業者との打ち合わせが、大差ない重みで存在しています。患者さんのことを考えるのと同じくらい、近くの同業者に負けないためにはどうしたらいいか考えていましたよね。

先生が突然この病院をおやめになり南の無医村へいらっしゃると聞いた時は、まったく狂気の沙汰だと思いました。名医と名高い先生の手術を待っている患者さんは数知れないのです。それが手術機器もそろわない無医村へ!

先生が私に一言の相談もなくお決めになったことが、私には何より衝撃でした。先生のアシスタントを勤めて10年以上。なぜ一言おっしゃって下さらなかったのでしょう。お怨み申し上げます。ひどい方だわ。

でも、先生のいない病院で、機械的に「処理」するような診察の数々に立ち合って、先生がそちらへいらしゃることに決められたお気持ちを理解できた気がします。仔馬が産まれるところに立ち会うなんてワクワクではありませんか。

この手紙が届くころ、私の荷造りも完了します。さあ、先生!急いで私の部屋を用意してくださいませね。先生には腕のよい看護師が必要ですわ。港へ、日焼けした先生が輝くような笑顔で迎えに来て下さるのを楽しみにしています。




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今日もフィクション、モデルなんかいるはずもありません。

今日はバレンタインデー。
「好きです」とハッキリ言うのと同じくらい、「好きです」という言葉を使わずに思いを伝える言葉を愛しています。