あれから、真理は時折今日子の家に立ち寄るようになっていた。
相変わらず仕事を始める気にはならない様子だったが、登山には定期的にでかけていた。
そこで撮影した写真が、隆三の目にとまったのだ。
いつの間にか隆三と相談して、新しいデジタルカメラを買ったりしいていたことに、今日子は密かに驚いていた。
「山登りって、そんなに楽しいの?」
ある日、今日子は聞いてみた。
真理がやってきたちょうどその時、優との打ち合わせが終わって、ふたりでミルクティーを楽しんでいたところだった。
真理と優とは、その日以前に、やはり今日子の家で偶然会い、挨拶を交わしていたので初対面ではなかった。
「楽しいというか…。なんだか清々しいんですよ。嫌なことも忘れられそうな感じ。」
「そうなの。今度私も連れて行ってもらおうかしら。」
今日子にとっては軽い社交辞令が7割の言葉だった。
「じゃ、僕も連れて行ってください。黒部渓谷とか白馬連峰とか、もうすごいじゃないですか!」
優が会話に加わった。
「水田さん、登山経験は?」
真理が訪ねた。
「ありません。あ、小学校の遠足で、高尾山に登りましたよ。」
「高尾山って、あれは山のうちには…。」
真理が吹き出した。
「それじゃ、いきなり白馬ではキツいかもしれませんよ。」
「そうかな?そんなことないと思いますよ。僕はこう見えて、高校まではサッカーをずっとやっていたんです。」
「へぇ。」
真理の返事は素っ気無かった。
「ミドリさんに聞いてみてくださいよ。彼女、サッカー部のマネージャーだったそうだから、僕のポジションがどれだけ走るか、きっと説明してくれますよ。」
「どこなの?ポジション。」
「サイドハーフです。」
聞いてはみたものの、サイドハーフがどこかもわからない真理は、話を続けられない。
「そういえば、スミレちゃんの亡くなったパパもサッカーをやっていたのよね。」
場を取り繕うように、今日子が言い出した。
「ええ。フォワードだったと聞いています。キャプテンだったそうです。それで今スミレちゃんもサッカーを始めて、フォワードを選んだのだそうですよ。」
「それ、ミドリさんから聞いたの?」
真理は思わず尋ねた。
「ええ。」
「へぇ。随分と立ち入った話をしているのね。」
真理もミドリと優の噂はよく知っていた。
「いつにします?
今日子さん、その日はふたりとも休暇にしましょうね。
長谷川さん…今日子さんが真理さんって呼ぶから、僕も真理さんでいいですか?
真理さん、それで、どんな用意をすればいいですか?」
今日子さん、その日はふたりとも休暇にしましょうね。
長谷川さん…今日子さんが真理さんって呼ぶから、僕も真理さんでいいですか?
真理さん、それで、どんな用意をすればいいですか?」
今日子も真理も交渉のプロに巻き込まれて、あれよあれよという間に3人で山登りに出かける日や行き先、準備の買い物の約束まで決まってしまっていた。
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