好物のラーメンと餃子でお腹を満たした二人が帰宅すると、愛犬のジョンがのそりと立って幸子に飛びついた。
ジョンは足が長くて背が高い。立ちあがると前足を幸子の肩にかけた。頭は幸子の上にある。
黒と茶が混じった毛に、だらりと垂れた耳。大きくて優しい目をした大きな犬。
ジョンは幸子が東京から連れてきたゴールデンレトリーバーとシェパードのハーフだ。
どういういきさつでその両親が子どもを持ったのかは定かでないが、ジョンはレトリーバーである母の穏やかさとシェパードである父の聡明さを兼ね備えた犬だった。
5頭同時に生まれ、4頭はそれぞれにもらわれていったのに、ジョンだけが最後に残ってしまった。
母犬の飼い主は、ドッグショーでトロフィーをもらっていた自慢の犬が起こした間違いのツケを払う気はなかったらしい。
貰い手がないなら保健所にやってしまおうとしか考えていなかった。
父犬の飼い主はもとより、警察犬の訓練まで受けた優秀な家族がしでかしたたった一度の過ちに対して厳しすぎる、南極に吹く風のような冷たい視線に耐えながら平謝りに謝ったのだから、後は知らないという態度だ。
この話を、たまたま幸子の父が聞きつけた。
日曜の朝食の、ちょっとした話題のつもりで話したのだが、普段は合理的なことにしか興味がない妻と、慣れない激務に疲れた娘が同時に強い関心を示した。
もとより、父は密かに、子どもの頃から犬を飼ってみたいという願望を持っていた。渡りに船とはこのことだ。
とにかく会いに行ってみようということになり、その日の昼には母犬の腹の下に隠れるように眠っている子犬を3人で見降ろしていた。
目を覚ました子犬が小さな体には重たすぎるように見える頭を持ち上げた。
幸子が声をかけた。
「あなた、うちの子になる?」
すると、子犬は言葉が通じたかのようによちよちと家族の方に歩いてきて、差し出された3人の手を順番にくんくんと嗅ぐと、そのまま父の足の間にもぐりこんだ。
子犬が佐川家の一員になった瞬間だった。
「ジョン、あのね、今日はいろいろあったんだ。聞いてくれる?」
妻は思考を整理する時に、決まって横たわったジョンを撫でながら話しかける。
真吾は邪魔しないことにしているので、二人を残して風呂に入ることにした。
ジョンは常連のクライアントを迎えるカウンセラーのような目をして、ソファーに座った幸子の膝に顎を乗せた。
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