スミレが松葉が丘小学校に通い始めた2学期、疲れをためたスミレが熱を出したりしたこともあったが、同じクラスのトコちゃん、隣の2組のメグちゃんともうひとりの女の子、同室の4人はこれまで通り、にぎやかな毎日を過ごしていた。
時折トコちゃんに迎えが来て外出して行くと、残された3人には微妙な空気が生まれる。
初めのうちはその微妙さが3人共有のものだったが、メグちゃんに里親の話が来ているとわかってからは、思いの温度に差が生まれ、残る二人の幼い胸にいつもかすかな影が落ちるようになった。
「あのね、メグに新しいパパとママができるんだ!」
ある日メグちゃんは、職員がいない部屋のベッドに他の3人を呼んで、とても大切な秘密を打ち明けるように、小さな声でささやいた。
「へぇ。そうなんだぁ。」
他の3人は、それ以上コメントのしようがない。
パパ、ママ、という言葉に、なんらの温かさも嬉しさも感じていないスミレとトコちゃんたちにとって、それがどうしてそんなに自慢げな話しになるのか、さっぱりわからない。
それでも、友達のメグちゃんのいうことだからと、作り笑顔を浮かべているのだ。
女というのは、3歳だって女だと、誰かが言っていた。
女同士で平和に生きていくための術は、6歳にもなれば当然身の内から湧き出てくる。
DNAが慎重に受け継いできたもののひとつなのだろう。
「メグの本当のパパはすっごく背が高くて、カッコよくて、お金持ちだったんだよ。ママはね、美人で、モデルだったんだ。ふたりはコイに落ちてレンアイケッコンしたんだよ。」
コイに落ちてレンアイケッコン?
そんな言葉に弱いのも、女ならではなのだろう。
4人の額はますます近づいて行く。
メグちゃんのパパはガスボンベを運ぶ仕事をしていたサラリーマンで、ママはメグちゃんを保育園に預けてコンビニのアルバイトをしていた。
二人とも身よりのない、自分たちの力だけで生きていかねばならない境遇で、生活はいつもカツカツだった。
亡くなってから1年ほどたつうちに、メグちゃんの中で、二人は相当美化されたのだろうか。
「パパとママはすごくアイしあっていたから、いつでもチューってしてたんだ〜。」
チュー、が何かくらいは他の3人もわかっている。
「それでね、パパはメグのためにバクダイなザイサンを残してくれたの。」
どこか大きな誤解があるようだが、子どもたちはそんなことを知るはずがない。
いつも「予算がないから節約よ!」と言っている職員たちの言葉から察するに、ザイサンはたくさんある方がよいに決まっている。
「いいねぇ。すごいねぇ。」
トコちゃんが感心して見せる。
「でしょう?本当のパパとママは交通事故で死んじゃったけど、メグにザイサンがあるから、新しいパパとママができるんだよ!」
「うわぁ。そうなんだぁ!!」
そもそも、里親とはそういうものではない。
メグちゃんは明らかに考え違いをしていたが、ともかくこの里親の話は着々と進行していった。
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