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復旧作業中とのことなので、近日中には解消するものと思われます。
ご迷惑をおかけしますが、どうぞ引き続き、Win-Winをよろしくお願いします。
すみません、自分のことばかりしゃべってしまって、とうつむいた真理を黙って見守りながら、祖父は考えた。今、この瞬間、自分にできることは本当に何もないのだろうか。この健気な女性は、明るさの皮をかぶって、今も空洞の心を抱えて泣いているのだ。それを、こんなに素直にみせてくれているというのに。
「長谷川さん、いえ、真理さん。私はあなたとお会いするのは二度めですね。その私に、そんなに大切なお話を聞かせてくださった。私はあなたに応えたい。」
「いえ、勝手に話してしまいました。それに、星川さんのご事情もよくわかっているのに、許せないなんて言ってしまって…。」
「いえ。どうぞ言ってください。許されることでないということは、よく分かっていますから。真理さん、目を、閉じてください。」
「は?」
真理はようやくポケットから取り出した小さなタオルで、ゴシゴシと顔を拭った。
涙の後は、そうでなくても薄くてはがれおちそうだった化粧もろとも、すべて消え去った。
それから、明らかに努力を込めて笑顔を作ると、わざとらしい明るい声で言った。
「目を閉じて?何ですか?」
「いいから、目を閉じて。」
「はいはい、こうですか?」
茶化さずにはいられないのだろう。
心を開ききれないのは、子どもたちではなくて、あなたの方だ。
祖父はそっと椅子から立ち上がり、真理の後ろに回った。
大きな手を、そっと真理の肩に乗せた。
ピクリと真理が肩を震わせる。
「真理。」
祖父は、呼び捨てにした。深くて低い、けれども力のこもった声だった。
「真理。お前がバスで吐いてしまって、病院に運ばれた時、すぐに迎えに行ってやれなくて、本当にすまなかった。どれだけ心細かっただろう。すまなかったね。」
真理の体がビクリと強く震えた。
「いつもいつも弟のことばかりで、お前のことをきちんと見てやれなかった。いけないとは分かっていたのに、優しいお前の遠慮に甘えて、放っておいた。もっとお前をよく見て、お前と話をすればよかった。もっとお前を抱き締めて、お前とパパとママだけの時間を作るべきだったんだ。」
祖父の大きな手が、真理の肩から頭へ移った。
「もっとお前にわがままを言わせてやればよかった。悩み事もあったろう。行きたいところもあったろう。すまなかったね。」
祖父の手が、真理の頭をなでる。
祖父は、真理が怒りだすのではないかと思った。
怒られてもいい。
それでも、真理がずっと聞きたかっただろう言葉を伝えてやりたくてしかたがなかった。
真理はそれを聞く権利があったはずだ!
真理はじっとうつむいたままで動かず、背後に立っている祖父には、表情が見えなかった。
「娘だけでなく家庭まで失って、お前の心にはもともとあいていた大きな穴が、もっともっと広がってしまった。辛かったね。苦しかったろう。よく、ここまで頑張って生きてきたね。」
うっ、と嗚咽が漏れた。真理の声だ。
それに構わず、祖父は続けた。

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