これと言ってアトラクションに並ぶこともなく、私たちはディズニーランドの中を歩きながら話し合っていました。塵ひとつ落ちていない道、磨き上げられたトイレ。ここにゴミを落とすなんてできないと思います。自在ほうきとちり取りを持った若い女性キャストが、まるでダンスをするかのような優雅さで、道を掃いていきます。
少し歩き疲れてベンチに座ろうとしていたかあさんが、「あのお掃除をしているみなさんをカストーディアルというそうよ。」と教えてくれました。「カスト…?」「カストーディアル。ディズニーランドがほかのテーマパークと違っていられるのはあの方々の存在のお陰だと、父は何度も言っていたわ。」
ベンチに落ち着いて周囲を見た時でした。目の前に走ってきた子供が、ポップコーンを持ったまま思いきり転んでしまいました。「あっ!」私が腰を上げるより先に、先ほどのカストーディアルさんが駆け寄ってきました。「大丈夫?痛いところはない?」
ポップコーンが散らばった地面から起き上がると、子供はしくしく泣き出しました。母親らしい女性が駆け寄って、声をかけています。「こぼれてしまったものはしかたないでしょう?我慢しましょうね。」「うっ、うっ…。」「泣いたってこぼれたポップコーンは返ってこないわよ。我慢、我慢。」
「あのね、内緒の話なんだけど、ここは魔法の国だから、我慢しなくていいのよ。お姉さんが魔法をかけると、ポップコーンが元にもどるの。どうする?魔法を見てみたい?」「ホント??魔法、かけて!」「いいわよ。さぁ、このカードを持って、ポップコーンのお姉さんに見せてごらんなさい。」
子供は一目散に駆けだしていきました。そして、新しいポップコーンを抱えて「ママ、見て、見て!!すごい。ありがとう、お姉さん!!」今度は転ばないように気をつけながら、早足で戻ってきました。母親は深々と頭を下げてカストーディアルの女性に言いました。「私にはこんなふうに子供を喜ばせることはできませんでした。ありがとうございました。」
子供が戻るまでの間に、地面に散らばったポップコーンは、一片の残りもなく、ちり取りの中に片付けられていました。いつもいつもこんな扱いをされていたら、自分でしでかした失敗の責任をとれない、とんでもない甘ったれが育つに違いありません。でも、ほんの1回、1日だけなら、どれほど心が温かくなることでしょう。

人気ブログランキングへ