
おかえりなさい。
昨日・今日は「疲れたら休む」に集中して過ごしました。
眠いと感じた時に眠ってみる。それだけのことなんですが、これまで「昼間から寝ているなんて病人みたい」と思って、眠くても我慢して起きていて趣味の時間にしたり、本を読んでいたりしたことにふと気付きました。趣味も読書も大好きなので、やっている間は充実しているのですが、その前に感じた眠さ・疲れが消え去るわけでもなく、そういうことが積もり積もって今を作っているんだろうなと感じたのです。
休む時には病人みたいに休んでみる。もう少し続けてみようと思います。
さて、物語は続きます。
足もとにポトリと落ちた封書を取り上げてみると、しっとりと重く、厚みがあって、どうやらカードが入っているようだった。
封を切る。やはり、そうだ。
「いつもこちらをのぞいているあなたへの招待状
あなたがまだ一度も味わったことがない、素晴らしいケーキができあがりました。
完成を記念して、先着順で、このケーキをプレゼントいたします。
ただし数に限りがありますので・・・」
あの美しい場所からの招待状だ!
あちらの人は、私の好みまで知っているのだろうか。まだ味わったことがない素晴らしいケーキだって!!そんなことを聞いて、無視できるはずがないではないか!!!
ああ、どんな味なのだろう。どんな色をしているのだろう。フルーツがのっているのだろうか。ナッツが刻んであるのだろうか。香りは・・・どうだろう。口にいれるとふんわりととろけるんだろうなぁ。
そうだ。確かに、風に乗って運ばれてくるあちらからの空気には、バニラの香りも混ざっている。バターの香りもする。ああ、食べてみたい!しかもプレゼントだなんて、見逃せようか。
よし。
私は決めた。行ってみよう。
足もとと目的地とをバランスよく見るのだ。
そして、無防備にふらふらとでかけるのではなく、準備をするのだ。
絆創膏と消毒液だけでは対応できない事態があった。今度は湿布も持っていこう。添え木も包帯も用意しよう。それから、天気が急変するかもしれない。傘とカッパも用意しよう。寒くなる時のために上着を、熱くなる時のために半そでシャツも用意しよう。靴はどれがいいだろうか。途中で休むかもしれないから寝袋もあったほうがいいだろうか。食料はどうだろう。お金・・・お金はいるのかな。
よし、あとはカバンに詰め込んだら準備OKだ。ああ、この小さなカバンでは入らない。大きなリュックを買いに行くのだ。
ふと、準備の手を休めては、さまざまなケーキの様子を思い浮かべてみる。ピンクのクリームに、白い薔薇のクリームがのっていたら。大きなイチゴがのっているのはもっと大好きだな。最近はマンゴーのムースもおいしい。カシスの酸味も捨てがたい・・・ああ、どんなだろうか。見たいなぁ。食べたいなぁ。
ようやく大きなリュックを手にいれ、ごちゃごちゃと準備をした品物を詰め込んでいると、また耳元をヒュッと何かが通り過ぎた。
今度はすぐに、封書が来たことがわかったので、ワクワクしながら開封してみた。
「いつもこちらをのぞいているあなたへ
このたびはたくさんの方にお越しいただいて、ありがとうございました!
世界一美味しいケーキとお褒めいただき、大変喜んでおります。
おかげさまで、用意したケーキはすべてプレゼントすることができました。」
ああ!
終わってしまったのだ。
なんてことだ。
どさり、とリュックを落として、ふらふらと窓辺に戻った。
窓の向こうの美しい場所は、前回見たときよりも遠くに見えた。霞がかかったようにぼんやりとして、鮮やかさが少し失われたような気がした。
その時になって、自分は大きなチャンスを逃したのだということが、ようやく理解できた。
窓の向こうには、相変わらずたくさんの人が歩いている。あの中の何人が招待状を受け取ったのかはわからない。でも、受け取った人の何人かは、受け取ってすぐに行動を起こしたのだ。すぐに窓を乗り越えて、美しい場所に向かって歩き出したのだ。
その人たちは、もしかしたら、いつ招待状が来てもいいように、でかける準備を済ませて待っていたのかもしれない。
あるいは、準備はいらないと腹を括って飛び出したのかもしれない。
どちらにしろ、私のようにぐずぐずとしていなかったのだけは確かだ。
チャンスがきたら、準備ができるまで待っていては出遅れるのだ。
チャンスは、その場で、捕まえるんだ!
自分がものすごく無知で、愚かに思えた。
いったい、私は最近、なにをしているのだろうか。あの、美しい場所に気付いてからというもの、私はたまらなく不幸な気がする。
何も気付かなければよかったのに。そうしたら、壁のこちらで平穏な毎日を送れたのに。
悔しいのか、悲しいのか、よくわからない、まだ名づけられていない感情が、私の心を支配した。
涙が、粒のまま、ポロポロと落ちて、地面をぬらした。
もしも私がその時に外を見ていたら、あの美しい場所が手を伸ばせば届くくらい近くまで寄ってきてくれたことに気付いたろう。でも、私はその時、外を見なかった。
さっき取り落としたリュックのところに戻り、ぺたりと座り込んで、地面のひんやりとした冷たさを足に感じながら、残りの品物を詰め込んだ。
詰め終わると、窓のすぐ脇に、リュックを立てかけた。
「次に招待状が来たら、きっとすぐに出発しよう。」と、心に誓いながら。
「いい子だ、いい子だ。」
そんな声が聞こえたような気がして、あたりを見回した、空も、背中のほうも見たけれど、誰もいなかった。ふわり、と髪を撫でられたような気もしたけれど、やはり誰もいなかった。
錯覚だな。風が吹いたのだろう。
私はリュックの横に座って壁にもたれかかり、眠ることにした。
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