日本代表のゴールキーパーは谷川といって、キャプテンマークを巻いている。
ヨーロッパの選手に負けない上背と、なまはげのような恐ろしい表情が人気のタフガイだ。守備が甘くてゴールを狙われてしまった時など、己のファインセーブを喜ぶ以上に、大声援をくぐりぬけてテレビのマイクに届くほどの怒声を響かせる。こういうタイプは直情径行と決まっていて、失点した時などは、この大声がスタンド以上の大声援となってチームを鼓舞する。日本代表になくてはならない精神的支柱だ。

巨大スクリーンに、この守護神が映し出されると、子どもたちが一斉に歓声を上げた。見た目よりずっと若いこの選手には、最近、アイドルグループBAKのリーダー・ルナと恋のうわさが流れているだけあって、いろいろな意味でどよめきが大きい。あのフランス人形のような顔をした小柄なアイドルと巨大なまはげが、どういった「おつきあい」をするのか、想像するだけで楽しい。

「ねぇ、スミレちゃん。BAKのルナって、谷川の応援にこっそり来てないのかな?」
「ルナ?来ていたらすごいよねぇ。けどさ、あれって単なるウワサじゃないの?」
「見てみたいよねぇ。」
井戸端会議のおばちゃんのノリだなぁと思いつつ、そんな会話が楽しくてたまらない。

ディフェンダーは、3人とも国内クラブで活躍している選手だ。
左から、田中、山中、山田。
名前も存在感も地味で目立たないが、手堅くきっちりとした仕事をする。
ただし、攻撃的ではない。
勝つために堅守は必要不可欠だが、守り堅い試合というのは見ていて息詰る攻防に緊張はあっても、素人目には面白くないものだ。
かといって、南米や欧州のチームのように、守備陣が自在に攻撃に加わるようなフレキシブルなチーム作りは、日本ではまだ難しいともいえる。

そこで、重要になるのが攻撃的ミッドフィルダーと呼ばれる選手たちだ。
今回話題の滝沢健人はここにいる。
しかし、チームの一番人気は、なんといってもフォワードの真壁だ。
すでに欧州リーグでも名を馳せているファンタジスタは、韓流俳優かジャニーズを思わせる甘いマスクをしていて、ファッション誌の表紙を飾ったりもしている。

スクリーンに大写しになった真壁の紹介では、ブランドの時計やサングラスを使いこなしたファッションを惜しげもなく見せているものの次に、上半身裸の写真が出た。
きゃぁっと女性たちの嬌声が響く。
まるで仔馬のようにしなやか身体は、日に焼けて光っている。
しかし、真壁の魅力は見た目だけでは語り尽くせない。

真壁の特徴は、恵まれた身体能力、サッカー環境だけにとどまらない。
そのずうずうしいほどの自信は、他を圧倒してやまない。
彼には彼のサッカー哲学があり、譲るつもりはないらしい。
彼がよしとするサッカーは、超攻撃サッカーだ。
確かに、真壁が走れば点が入りやすくなる。
守備的貢献よりも得点を。 
ツートップのフォワードとミッドフィルダーたちは真壁を支持した。

しかし、一度間違えば突出した攻撃は背後に大きなスペースを生み、そこを突かれて失点につながる。
だから、真壁が突出すればするほど、失点をよしとしないディフェンダーはラインを下げ、それにつれてミッドフィルダーたちもゴール方向に引きずられて寄ってしまう。
すると、ちょっとした隙に敵が自陣に攻め込むかたちになり、試合は押しこまれた展開になる。
しかも、誰かが攻撃チャンスを作ったとしても、味方の上りがおそくなるから、得点にはつながりにくい。
高校生のサッカーではないから、誰かひとりがオフサイドにもならずにドリブル突破してゴールを決めるなど、いくら真壁でも、そうそうあるものではないのだ。

真壁とディフェンス陣は激しく衝突した。
やりたいサッカースタイルが違いすぎた。
そんな分裂したチームが強くなるはずはない。
日本人の気質を知らず、日本語も話せない監督は、調整に苦悩した。
監督が目指すのは、日本人の小柄な体とチームワークの良さを生かしたパスサッカーだ。
しかし、いまやそのチームワークが瀕死の状態になっている。
練習試合にも負け続け、もはや自分が解任されるか…という時にひらめいたのが、滝沢健太の召集だった。






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