「なんで!?」
「そうじゃろう?わしらも、声をそろえて聞いたよなぁ。」
「ほんとに。」
その場にいた幾人かが頷いた。
先にその時のことを思い出している人は、すでにクスクスと笑っている。

「で?真理さんはなんて言ったの?どうしてイヤだと?」
幸吉じいさんは丸まった背中を精一杯伸ばして胸を張り、一世一代の声を張り上げた。
「『水田さんと結婚したら、私、ミズタマリになっちゃう!そんなの絶対にイヤ!』」
「水たまり…。」
バイトスタッフが目を丸くした。
振り向いて、そこに座っている真理を見たとたん、バイトスタッフは爆笑した。
それにつられて、広間中の人が大笑いした。
「やだ、ホントだ!今日まで気付かなかったけど!」
「だから、もう!」
真理は耳まで赤くしてふくれっ面になった。

「続きがあるんじゃよぉ。」
「え?聞きます!それでそれで?」
「真理ちゃんの断る理由が理由になってないから、もうまわりは遠回しのOKじゃと受け取って、おめでとうの嵐になってなぁ」
「うん、うん。」
「驚いたのはその先じゃ。
マリアンヌが笹山さんたちを起こして、怪我はないかと聞いて回ったんじゃ。
私はここのリハビリ担当医ですってなぁ。
笹山さんたちはようやく、ここが本当に老人やら寂しい人やらに本気で役立つ場所らしいと気付いたんだなぁ。
なんたって、本物のお医者様だもんなぁ。
笹山さんたちは急に、態度が変わってしもうた。」

「最初から誤解しすぎなんですよ!」
バイトスタッフは鼻息が荒い。
「笹山さんはいい人じゃ。ちょっと気がみぢかくて勘違いもするけど、根はいい人なんじゃなぁ。」
「それでやっと、私が知っている笹山さんですよ!」
「笹山さんはわしらに謝ってくれたんじゃ。それから、ミドリちゃんのところに行ってなぁ…」
「もしかして、うちの嫁に来ないか?って?」
「そうそう。あんたはいいお嬢さんだ、うちの息子の嫁に来ないかって、その時、突然なぁ」
「うわぁ!」






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