あれからもう5年経ったのか。
新吉の感慨は深い。
このところ、長野にいることはほとんどなく、各地に展開している、あるいは展開しようとしている「おらほの家」を巡り歩いている。
そのためには長野にしか家がないのはいかにも不便で、松重は社宅にしていた東京の家を新吉に返してくれていた。

パーティーの準備は準備万端整った。
広間でくつろぐ仲間たちを眺めやると、本当にあっという間だったなという気持ちと、胸を去来する数えきれないほどの様々な出来事に、長い道のりだったと思わずため息が漏れるような気持ちとが同時に湧きあがってくる。

「新吉さん、みんなが帰ってきましたよ!」
眠っている息子を片腕に抱いたまま、水田優が事務室からやってきた。

「やぁ、すごいなぁ。ものすごい歓迎だ!」
「きゃー、今日子さん、ご無沙汰しています。」
どやどやと広間に入ってきたのは、各地の「おらほの家」の施設長たちだ。
「いらっしゃい、みなさん。遠路はるばる、ありがとうね!」
今日子はひとりひとりの顔を見つめては握手をし、挨拶を交わしている。
始終彼らと会っている新吉と違い、今日子はみな別れの日以来の再会だ。

「『安曇野おらほの家』での1年間の研修が私たちの原点ですもの。」
「ここで学んだことがなかったら、私は絶対施設長なんてできなかったわ!」
「そうですよ。ここで今日子さんから教えていただいたことを元に、他の『おらほの家』でもう1年。たった2年の経験で新しい施設の運営などできるはずがないと思っていましたが、どうにかこうにかうまくいっているのは、まったくここでの日々があったればこそです。」
「それに、ここで得た仲間と連携して、日本中のおらほの家の利用者が交流する仕組みがなかったら、私の地域は資源がまだ少ないから、運営に行き詰っていたかもしれないのです。」
「お聞きですか、今日子さん。先日は私たち『那覇おらほの家』がこぞって『旭川おらほの家』にでかけて、動物園のお世話をお手伝いしたんですよ。まぁ、寒いのなんの!沖縄の元気なおばあやおじいの心臓も、あの寒さには負けそうだったの!」

各地の施設長たちが今日子をほめたたえるのを、後ろで隆三が嬉しげに聞いている。
どこかで待ち合わせて一斉にやってくるあたりも、この人々の連携のよさを物語っていた。
「ああ!亀さん、鶴さん、相変わらず似ているなぁ。元気そうだね!」
「ふん、年取ったからと言って双子が似なくなるものかね?」
利用者との会話も始まると、先ほどまで、パーティーの準備に一息ついて穏やかなお茶のひと時だった広間は、一気にボルテージが上がった。

大きなざわめきに気付いて、優の腕の中の男の子が目を覚ましたようだ。
うーんとひとつ身じろぎをすると、ぼんやりとあたりに視線を漂わせた。
3歳児にとって、眠る前と目覚めた後のこの環境の変化はどう映るのだろうか?と思っていたら、案の定、ぐすりと鼻をすすると、うわーん!と泣き出した。
優がなだめにかかるが、背中をのけぞらせて腕から逃れようとする。

仕方なしに優が男の子を床に下ろすと、男の子はキョロキョロと周囲を見回した。
そうして、窓際のテーブルにミドリと真理が座っているのを発見すると、「ママ!」と泣きながら走りだした。
それを見て、ミドリが立ち上がり、両腕を広げて呼びかけた。
「ゆずる!」






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