待ち合わせ場所に最初に戻ったのは新吉だった。
あれこれ迷うのが苦手なので、買い物は目に着いたものをふと選ぶ。時間はかからない。
次に出てきたのは権藤氏だった。
先ほどはビシッとスーツで決めていたが、今はゴルフウエアを着ている。
新吉が、肩ひじの張らない街の洋食屋だから、その重役臭がプンプンするスーツはやめたほうがいいと、耳打ちしたからだろう。
新吉も腹がせりだして、スミレの格好のクッションになっているが、権藤氏も相当のものだ。
新吉は、毎週末ゴルフにでかけていてこの腹はどういうことだ?と胸の内で悪態をつきながら、ふと思う。
自分の腹の中身は間違いなくあり余った脂肪だが、こいつの腹の中は、これまでこいつが飲み込んできた、表ざたにできないいろいろなのかもしれない…。
そう思ってから改めて見ると、なんとなく布袋さんの腹のようにも思われて、ちょっと手を合わせたくなる。

「お待たせしてしまって申し訳ありません!」
明るい声がかかって振り返ると、今日子が小走りに寄ってきた。
左手にふたつ、右手にひとつ、誰もが知っているデパートの大きな紙袋を提げている。
気付けば、別れた時に着ていたはずのクリーム色のスーツではない。
コートはカシミヤのロングのままだが、黒くていかにも柔らかそうなニットの襟元が見え、下もパンツスタイルになっている。
裾が膝下くらいしかない。これは何と言うのだろう?
いかにも新しげに光をたたえた足元は、ロングブーツだ。
おやおや、オシャレなことで。

「お色直しですか。こちらも結構ですなぁ。」
早くも権藤氏が軽口をたたいている。
「気の置けないお店と聞いたので。」
今日子は笑顔で答えている。
答えながら、横目で新吉を睨みつけてくる。
さっき私が転びそうになったことは内緒よ、いいわね??その目が釘を刺す。

最後に登場したのは、二人の秘書を従えた会長だった。
秘書たちは多分、出勤した時の服なのだろう。
松重の会長秘書にふさわしい、かわいらしくも品の良い色合いを着こなしている。
特に、珈琲マイスターの彼女が着ている真っ白のカシミヤコートに新吉は目をとめた。
これはかわいらしい。スミレが大きくなったら、こんな服を買ってやろう。

会長はと目をやると、ジャケットにスラックスの、先ほどとは明らかに違う服装をしている。
が、こちらは着ているものの品質が明らかによい。
すらりと背が高いので、外国の俳優のようにも見える。
こうして集まってみると、自分のスーツ姿がいかにも浮いていると思いつつ、得体の知れない集団となった。

お待たせをいたしましたと、道路のほうから歩いてくる人物がいる。
新吉は、以前会ったことがあるこのダークスーツの男性が、会長の執事の息子…後藤と言ったか…であると、すぐに気付いた。

「お車の用意はあちらに。今日は大人数とお聞きしましたので、リムジンにいたしましたよ。」
リムジン?新吉は慌てて修正を試みようと一歩踏み出したが、もう遅い。
「そうか。では、みなさん、行きましょう。」
会長が厳かに宣言すると、秘書ふたりが遠足に向かう子どものようにはしゃいだ声をたてた。
今日子をエスコートする会長が先頭にたち、集団はリムジンに向かっていった。






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