寝坊したとはいえ、新吉が目を覚ましたのは朝8時半。
今日は休暇と決めていたので、それほど寝過したわけではなかった。
一瞬、自分がどこにいるのかわからず、空白になった頭をフル回転させる。
ああ、ここは長野の家だ。俺の寝室だ。
今日は仕事じゃないから、この時間に起きても問題はないんだった。
どうやってベッドにたどりつき、いつ眠ったのかは、どうしても思い出せなかった。
のっそりと起き上がってみると、下着姿のまま、布団の中にいた。
ミドリが布団をかけてくれたのだろうか。それとも自分でもぐりこんだのか。
いくら記憶をたどっても、昨夜の映像は出てこなかった。

耳を澄ませてみる。
階下からは物音ひとつしない。
ミドリはどうしたんだろう?スミレは?
ああ、スミレは学校か。
ならばミドリは?

東京よりもずっと低温の室内に、下着姿は寒かった。
ぶるると肩を震わせ、適当に着るものを選ぶと、羽織りながら階段を下りる。
リビングのテーブルに、ミドリのメモが置いてある。
「おはようございます!東京出張お疲れさまでした!今日はゆっくり休んでね。ちょっと、病院行ってきます。朝ご飯は、冷蔵庫を見て温めてね。お昼前には帰る予定です。」

ああ、なんだ、病院か。
ミドリは定期的に通院を続けている。
混雑した院内で待つのは嫌だといって、通院の日は朝早くに出ていく。
運転免許がないから、バスや電車を乗り継ぐ。
でも、それもリハビリのひとつと、新吉は考えていた。
ミドリも面倒がる様子はないようだ。

ソファーに身を投げだして、ようやく家に帰ってきたんだなという気がした。
この1週間、東京でしてきたことは、新吉を芯から消耗させた。
さて、どうしようか。
空腹を感じていたが、それを満たすよりも新吉を捉え続けていることがあった。
新吉は、何度か考えるのを放棄したその問題を、また考え始めた。
いや、それよりも実務をこなそうか。

新吉は電話をかけた。
相手はすぐに出た。
「ああ、今日子さん。おはよう。
うん、ゆうべ戻った。
ああ、大丈夫。採用計画は順調に進んでいるよ。
その前に、あなたの重役面接が決まった。
来週早々、僕と一緒に東京に行ってもらうからね。
え?
何言ってるんだ?大丈夫に決まってるだろう?
普段のあなたでいればいいことだよ。特別なことではないんだから。
うん、うん。
今日はオフにしたいから、明日改めて連絡するよ。
ああ、建築の方が順調なのは水田君から連絡もらっている。
彼も今日はオフだそうだね。
じゃ、また明日。」

短い連絡のみで受話器を置いた新吉は、また小さくため息をついた。
自分の心が定まらない。
これではいけない。
明日、彼女に会うまでに、結論を出すんだ!






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