距離を出すために、駐車場から頂上へ直行せず、2つのピークを越えてきていた。
時間も丁度12時を過ぎたところで、すっかりお腹が空いている。
いい頃合いに目的地についた。

優は早くもザックを投げ出して、まな板石の上で大の字になっている。
真理は思わず可笑しくなって、肩にかけていたカメラを向けた。
青空と、充分な日差しを浴びた被写体が、歩いてきた満足感を伝えてくれる。

「さあ、ご飯にしましょうよ。私、本当に唐揚げしか作ってこなかったわよ。」
真理はザックを下ろすと、 タッパーをひとつ取り出した。
よっしゃ、と気合い声をあげて飛び起きた優は、自分のザックを引きよせると、慣れない手つきであちこち開け始めた。

最初に出てきたのは、小さなエア座布団だった。
息を少し吹き込むとふわっと膨らんだ。それを真理に差し出す。
真理がありがとうと受け取って、石の上に置いて座ってみる。
と、優がふわりとフリースブランケットを膝にかけてくれた。
「大丈夫よ」
と言ってみたものの、優はきっと覚えていたのだ。
休憩の取り始めは温かいのだけど、次第に身体が冷えて辛くなると言った私の言葉を。
ブランケットも、優の思いやりも温かかった。

「そうして、これからがメインイベントです!」
おどけた口調で言うと、優は防水の袋に入ったものをカチャカチャと取り出した。
「え〜っと…」 
いくつかのパーツを組み立てて、ボンベをセットすると、小さなコンロができあがった。

「へぇーっ。」
真理は目を丸くした。
その顔を満足げに見てから、優はもう一つの袋を取り出す。
中からは、マトリョーシカのようにいろいろな形の鍋?が重なったコッヘルが出てきた。
その一つをコンロにセットすると、水が入ったペットボトルを取り出して、お湯を沸かし始めた。

ゴソゴソはまだ続く。
今度はスーパーの袋だ。
中からは、なんと古典的なカップヌードルが2味出てきた。
「この前、雄山の頂上でごはんにした時、こんな味が食いたくなったんですよ。美味いだろうなぁって。」
なるほど、それは真理にも分かる気がする。 
「俺、こっちの普通のヤツも好きなんですけど、シーフードも好きで。真理さん、どっちにする?」
「う〜ん、私は普通の方かな。」
「じゃ。俺はシーフードにしようっと。」

お湯が沸くまでの間に、優のザックからはスティック野菜だのフルーツだののタッパーが次々に出てくる。
「重かったでしょう?」
思わず真理は本気ですまないと思ってしまった。
「平気っすよ。でも、真理さんの唐揚げだけはまた食いたくて、頼んじゃいました!」
これも思いやりなんだろうなと思う。
全くの手ぶらだったら、自分はやっぱり恐縮してしまっただろう。

いっただきま〜すというはしゃいだ声がしたと思うと、優の口にパクリと唐揚げが消えていった。
「うっめ〜!」
真理はまた笑った。
歩いている間、優はどこか浮かない顔をしていた。
何か気がかりなことがあるのだろうと思ったが、尋ねたりはしなかった。
子どもではないのだ。言いたければ言うだろうし、言いたくなければ聞かれても言わないだろう。
とりあえず、今はあの浮かない顔が消えている。
真理はそれでいいやと、キュウリのスティックに手を伸ばした。

シューシューとお湯が沸き始めていた。






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