「カノン、カノン、先程のご挨拶、本当に立派でしたよ。お母様は一番大きな拍手をしてしまいました。」
美しい女性は、そんなことを言っているようだ。
「よかった!平気そうに見えたかもしれないけど、本当はドキドキしていたの。でも、皆様カノンのこと、頑張れって応援してくださっている気がして、勇気がわいたわ。」

カノンと呼ばれた少女は、スミレと同じか、少し年上くらいの年齢に見えるが、あれは某国の王女だと言われたら誰でも信じてしまうだろうと思うほどの風格を備えている。
美しい女性は、王女様を抱き寄せた。
キラキラと光る真っ白い生地のドレスを着た少女の、くりくりとカールした長い髪が女性の豊かな胸に寄せられ、ふわりふわりと揺れている。
抱きしめられ、母を見上げる瞳はブリリアントカットのダイヤモンドだ。
本当に、絵画のような情景だった。

思わず足を止めて見とれていた新吉に気づき、数歩戻ってきた後藤氏は、新吉に尋ねられる前に教えてくれた。
「あれは旦那様の…いえ、会長様の奥様・麗花様と、お嬢様の花音様です。」
後藤氏の声には、心の底から湧き出る泉のように尽きない敬愛の情が溢れている。
「お嬢様はおいくつですか?」
「小学5年生におなりです。」
「ああ、やはり…。」
「何か?」
「いえ、私にも小学生の孫娘がおるものですから。」
「孫娘!?」
後藤氏は目をまんまるに開けて新吉を見た。やはり、信楽のたぬきだ。
「お若いおじい様でいらっしゃいますねぇ。」

お屋敷ではこの夜、大切なお客さま方を大勢招いてのパーティーが催されていたそうだ。
会計年度が改まったばかりだ。
コンツェルンとしては、ここで気持ちも新たに強い決意のもと、再スタートを切る気持ちになるのは大切なことだ。
そういう意味のパーティーであろうことは、容易に想像された。

その席で、どういう経緯かは知らないが、花音嬢が挨拶をしたらしい。
それが毅然として大層立派だったのだと、後藤氏がかいつまんで説明してくれた。
松重グループ直系の血をひくこの少女が、20年後、新吉の孫・スミレと出会い、大きな影響を与えることになるなど、誰が思いつくだろうか。

自慢の娘を胸に抱いている、美しい…新吉にはそうとしか表現できなかった…母親を見て、後藤氏に促されてその場を離れ、歩きだした新吉の胸に、娘・ミドリの様子が蘇った。



大晦日の夜だった。
紅白歌合戦が終り、国営放送は各地の寺の除夜の鐘を聞かせていた。
リビングにしつらえたこたつにふたりで入り、
言葉少なに起きていた。
こたつの上のミカンがツヤツヤとして、年末の気分を盛り上げているような気がした。

「スミレに、会いたいな。」
ミドリがぽそっとつぶやいた。





人気ブログランキングへ