若いシスターが燃え盛る小屋に飛び込んでから、どのくらいの時間がかかったのかカズちゃんにはわかるはずもない。
そのうち、シスターはフラフラと玄関に現れた。
両手からあふれ、彼女の姿をほとんど隠すくらい大きな、白いものを抱えいていた。
掛け布団のようだ。
黒い背景と色を失ったカズちゃんの記憶の中で、その白いものは際立った存在感を持っていた。 

彼女はそのまま出ようとして、不自然に立ち止まった。
驚いたように振り返り、そのまま視線を足もとへ移した。
抱えた大きなものを、何度かぐいと動かす。
布団の隅が玄関わきの何かに引っかかって、進めなくなってしまったようだ。

うまくはずれないとわかると、彼女はもう一度背後を振り返った。
全身から絶望感が漂っている。
外から見ているカズちゃんたちにも、火がシスターに迫っているのが見える。
それでも、彼女は白い布団の中に包んだ少女をその場に置き去りにして逃げるようなことはしなかった。
もう一度、ぐいぐいと布団を引っ張り始めた。

見ていた他のシスターたちが駆け出した時だった。
バキバキという大きな音とともに、小屋が崩れ落ちた。
柱や屋根が白い包みを抱いたままのシスターの上に降り注ぐのを、カズちゃんは見た。
他のシスターたちが悲鳴を上げる。

「下がってください!下がって!!」
突然、何人もの男性の声が響いた。
車の音、走り回る姿。
消防隊だった。
「ふもとの家から、こちらに火が見えると通報があったものですから。」
「ああ!あそこに、子どもとシスターが!」
「わかりました。おい!」

オレンジ色のはずの消防服が駆け出す。
放水を受け、建ち残っていた小屋は跡かたもなく崩れ落ちた。

助け出されたシスターは、全身に大やけどを負っていた。
それでも、彼女が身体の下に抱きかかえていた白い布団の中から見つかった少女は、煙を吸ってはいたものの、かすりきずひとつなかった。

シスターは翌日、意識が戻らぬまま、静かに息を引き取った。 







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