大きいお姉さんたちと同じ部屋にしようか、と言われ、カズちゃんは少し不安な顔をした。
今日子はそれを見逃したわけではなかったが、環境の変化自体がいやなのだろうと解釈した。
これまで、言いようのない変化を味わってきた子だ。
ここに来てからの安定した毎日に変化があると、それだけで不安になっても不思議はない。
「大丈夫よ。安代さんや真理さんも一緒だからね。」
今日子の言葉にカズちゃんは小さく頷いたが、カズちゃんが少し不安な顔をした理由は、そこではなかった。

丘の上の教会には、夏の間、週末ごとに信者が訪れ、熱心に話を聞き、賛美歌を歌っていった。
隣に立つ「小屋」と呼んでも差し支えないような粗末な建物に、5人ほどの子どもたちが住んでいた。
カズちゃんはそこの最年少だった。
物心ついた時もそれは変わらなかった。
児童養護施設といっても、あまりの小ささに、それ以上の子どもを預かることができなかったのだろう。

それは、カズちゃんが4歳の初夏の出来事だった。
この施設に来て3年ほどが過ぎていた。
5人の子どもたちの顔触れは変わらず、それぞれに成長していた。

自分のひとつ上の女の子と、小学校に通う男の子3人。
女の子の記憶は、不思議なことにあまりない。
どちらかというと、男の子たちの後をついて回っていた。
男の子たちも、小さい妹をかわいがるつもりで、邪魔にしなかったのだろう。
大人から見たら子どもたちでも、カズちゃんから見たら、男の子たちは大きくて頼りがいのある存在だった。

お兄ちゃん、と呼んでいた。
みんなそれを当たり前のように受け止めていたと思う。
雪が降り始めると人が来なくなる教会で、子どもたちは毎晩神様に祈りをささげた。
シスターたちが言うとおり、床に膝をつき、指を組んだ。
お兄ちゃんたちは少しも熱心ではなくて、いつもポーズだけまじめにして見せては、下げた頭の下で舌を出している。

薪ストーブがあった。
夏の間に、みんなで散歩に出ては、折れた枝を探してきて積んでは乾かす。
冬になると、それをストーブに入れて燃やすのだ。
お祈りの間、目を閉じて神様に、これからもいい子でいられますようにとお祈りをしている間、薪が燃える音がパチパチと聞えて来る。
温かくて芳しい空気。
カズちゃんには神様が本当にいるのかどうかわからなかったし、ささくれた床についた膝は本当に冷たかったけれども、薪が燃える香りと音は大好きだった。

カズちゃんの記憶の中で、初夏のその夜も、パチパチという音から始まっている。
パチパチ、パチパチパチン。
小さくて聞き逃しそうなその音に、カズちゃんは浅い睡眠から呼び起された。







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