スミレは泣き寝入りしてしまった。
晩ご飯だよと起こすべきか、祖父は迷ったが、そのまま寝かしておくことにした。
でも、目覚めたらすぐ食べられるように、何か作っておこう。
祖父は夕食には不似合いだが、玉子サンドを作り始めた。

ひと組の布団をリビングに敷いた。
これなら、キッチンからもスミレの寝顔が見える。
彼女が目覚めた時にすぐ、おじいちゃんがいると安心してほしかった。
今夜は添い寝のつもりだ。

考えることが山ほどある。
学校へはもう行かなくていい。
これは本心だ。
小学校入学10日でこのいじめだ。
しかも、スミレの言うことを聞くと、単なる「いじめ」で片づけるわけにはいかない。

本来ならば、スミレと周囲の子どもたちの成長を待ち、他の保護者の理解を得ていくのがよいのだろう。
しかし、周囲の子どもも大人も、この子の周囲で起きたゴシップを、スミレに同情的に理解できるようになるまで、どれほど待てばよいのだろう。
待つ間、スミレの安全は保障されないのだ。

余分に作った玉子サンドを食べながら、祖父の思考はフル回転する。
ひと際小柄なスミレが「チビ」と言われたら、どれほど傷つくだろう。
スミレは母親と過ごした1週間のアパート生活を、実はよく覚えている。クサイと言われて、悲しまないはずはない。
字が書けない、数字を知らないと気にしているところに「バカ」と言われたら、さらに自信を失うだろう。

人殺し!?
噂に尾ヒレは付き物だ。
それに、哲也がしていたことは、確かに一歩間違えは人殺しになりかねなかったし、それはミドリも同じだ。
根も葉もない、と切り捨てられないのが痛い。
スミレの真新し上履きにマジックでいたずら書きされた内容も、同級生に言われたらしい言葉も、どれも根拠があるではないか!

子どもとは残酷なものだ。
分かっているけど言わずにおく、というような含みのある判断を覚えるのはずっと先のことだろう。
覚えないままに大人になった人もけっこういるではないか。
だとしたら…

いや、もう起きたことをとやかく考えている場合ではない。
明日どうする?
あの若い担任教師に事情を説明したところで何になろうか。
もう行かないなら、担任と話し合う必要もなかろう。

しかし、小学校教育をゼロにするわけにはいかない。
亡き妻は、次に何か起きたら児童相談所に連絡するよう言われている、と言っていた。
連絡してみるか…。いや、ダメだ。
この地域にいたら、選択肢は同じなのだ。
隣の小学校に転校しても、事態は大して変わらないだろう。

この子に起きた様々なことを何もしらない土地に、この子を移してやりたい。
マイナスからのスタートではなくて、せめてゼロからのスタートにしてやりたい。
でも、いったいどうやってそんなことを…?

あ!!
突然大声を出した祖父の口から、玉子サンドの玉子の白身が飛んだ。
「そうだ!シスター今日子だ!!シスター今日子がいるじゃないか!!!」






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