シャッと音をたててカーテンを開ける。
外はすっかり明るくなっている。
同時に鍵を開け、窓を思い切り開く。
まだ温度が低い、乾いた空気がさぁっと部屋になだれ込んでくる。

いい天気だなぁ。
スミレ先生はしばらく空を見上げている。
パジャマごし、少しだけ汗ばんだ肌に風が心地よい。

土曜日の朝は幸せだ。
時計に追われるように着替えたり、授業の段取りを考えながら朝食をほおばったりする必要がない。 
誰が見るでもないこの部屋にいる限り、このままパジャマで過ごしてもかまわない。

平日は、起きると同時にローテーブルに置かれたリモコンを取り上げてテレビをつける。
でも、土曜の朝はそれをしない。
車の音、雀のさえずり、道路を通って行く家族連れの話し声… 

大学に入って一人暮らしを始めた時、スミレ先生は時々完全にひとりになって、自分の体が求めるままに過ごす時間がどれほど心地よいものなのかを知った。いつもいつも精一杯に頑張っている自分を自覚する者だけが感じるささやかな自由。

ああ、また辞められなかったな。
今週こそはと思いながら、やはり言い出せなかった。
もう教師なんて、本当は何の魅力も感じていないのに。

それどころか、このまま続けていたら、思い通りにならない子どもに手をあげて、不祥事を引き起こしてしまうだけだと思う。もう限界だ。
辞めたい、辞めたい、辞めたい。最近はそれしか考えられない。

夕べ、チョコちゃんに聞いてもらおうと思っていた。
でも、言い出せなかったし、話は全然違う方向に行ってしまった。
本当は、ヒデ君のことなど私ごときにどうにかできるはずもないのだ。

ヒデ君を引っ張って無理やりボールを蹴らそうとした時は、必死で夢中で真剣だった。
けれども、本当にそれだけだと言いきれるだろうか。
いや、いい。もうそんなことも考えたくない。
チョコちゃんには「ああスッキリした」と嘘をついた。
でも、それも今日は考えないことにしよう。






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