「ねぇ、スミレちゃん。子供の性格って、どうやってできあがると思う?」
3杯目の生ビールを飲みほしたチヨコ先生は、顔色ひとつ変えずに尋ねてきた。

「何よ、試験みたいに。質問はいいから、先に話してよ。」
「いいから。はいはい、答えて。正解したら、このレバーを焼いてあげます!」
「いいよ、自分で焼くから。」
「ほら、子供の性格。どうやってできあがる?」

チヨコ先生は酔っても顔色が変わらない。
だから、酔っていないと思われてしまう。
けれども、スミレ先生は知っていた。
チヨコ先生は酔うと議論をしたくなるタイプだ。
自分で答えを持っていることについて、どう思う?と質問してくる。

「はい、はい。ええっと、子供の性格は、持って生まれた気質プラス環境ね。」
「では、その環境要因を具体的にあげてください。」
「めんどくさいなぁ。環境要因と言えば、両親、兄弟姉妹の性格や関係でしょう、家とか生活習慣、経済的環境、 周囲の住人、友達関係、通った保育園や学校、見たテレビや本、その他体験全般…。」
「そうよね。では、その中で、ダントツ子どもの性格形成に影響を与えるものはどれでしょう?」 
「ダントツ?そりゃもう、お母さんでしょう。」
「正解!」

何をいまさら言い出すのかと、スミレ先生は首をかしげた。
チヨコ先生は、スミレ先生の、ヒマワリの種を両手で持って齧っている小動物を思わせるような黒目がちの目を見返しながら言った。

「静江先生がね…」
静江先生というのは、チヨコ先生が大学を出て初めて教壇に立った時、指導をしてくれたベテラン教師だ。先日学校を大騒ぎに巻き込んだ体罰事件で、授業中に教室を立ち歩く子どもに注意をした男性教師が英雄のように支持を得たのに対し、1年から4年まで担任をもった静江先生は、それまで注意をしなかった指導力不足教員であるかのように責められ、今は療養休暇を取っている。多分、今年度の復帰はないだろう。

「静江先生はもともと、乳児院で働いていたんだって。それから児童養護施設に異動になって、 けっこう長く働いたみたい。そのあと、思うところあって小学校の教員になったって言ってた。」
「そうだったんだ。いい先生だよね。子供心に寄り添って。私、尊敬してるよ。」
「私も。静江先生は、あの子のこと、ADHDなんじゃないかなって言ってた。」
「ADHD?そうなの!?」
「いや、お医者さんじゃないから診断はできないわよ。でも、静江先生はいろいろな子どもたちを山ほど見てきているでしょう。それでそう思うんだから、間違いともいいきれないんじゃないかな。」
「だとしたら…」








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